本記事は、近年・専門性・複雑性を増す残業代請求に関し、労使ともに抑えるべき基本的な情報を提供するものです。
今回のテーマは、「除外賃金」です。
除外賃金は、残業代算定の基礎となる基礎賃金がいくらになるのかを把握するための重要な概念です。
詳論は個別に紹介するとして、本コラムでは、概要を見ておきます。
除外賃金とは
除外賃金とは、残業代算定に際して、労働者に対して支給される賃金から除外、差し引かれる賃金を言います。
この除外賃金の有無により、残業代の金額は大きく左右されます。
除外賃金がない場合の計算例と除外賃金がある場合の計算例を比較してみましょう。
除外賃金がない場合の計算例
労働基準法37条1項は、労働者が時間外・深夜・休日労働をした場合、使用者は、「通常の賃金」に一定の割増率を乗じて計算した割増賃金を支払わなければならないと定めています。
たとえば、通常の賃金が時間給2000円の労働者が時間外労働を提供した場合、使用者は、残業代として、少なくとも1時間当たり2500円を支給しなければなりません。
【計算式】 2500円=2000円+(2000円×25%)
1か月あたり45時間の時間外労働が提供された場合、残業代は11万2500円(2500円×45時間)となります。
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
除外賃金がある場合の計算例
では、ある労働者が、同じく、1時間当たり2000円の支給を受けるものの、その内訳が本給1500円、通勤手当500円だった場合はどうでしょうか。
この場合にも、使用者は、時間外労働1時間当たり2500円を支給しなければならないでしょうか。
結論を述べると、この場合の時間外労働の単価は1時間当たり2500円にはなりません。
給与の内訳の一部となっている交通費500円が、残業代の基礎となる賃金にならず、基礎賃金は1500円と把握されるためです。
通勤手当としての交通費は、仕事の内容や量とは無関係ないし関連性が極めて薄い個人的な事情による手当にすぎないため、残業代の基礎にはならないわけです。
結局、上記の場合(本給1500円、通勤手当500円)の時間外労働の単価は、通常、1875円となります。
【計算式】1875円=(2000円―500円)+((2000円-500円)×25%)
1か月あたり45時間の時間外労働が提供された場合、残業代は8万4375円(1875円×45時間)となります。
除外賃金がない場合と比較すると、残業代が少なくなっていることがわかります。
除外賃金として認められるもの
上記のように、除外賃金の有無は、残業代算定に大きな影響を及ぼします。
給与総額のうち、通勤手当など、除外賃金に該当する手当が多ければ多いほど残業代の金額は下がることになります。
他方、労働者側にとってみれば、除外賃金として認められるものが少なければ少ないほど、残業代は増えることになります。
では、労働者に支給される給与のうち、どのような賃金が除外賃金となるのでしょうか。
除外賃金の種類は法定されている
いかなる手当・賃金を除外賃金にできるかは法定されています。
残業代算定に際して、除外賃金として、労働者に支給する賃金から控除できるのは、法律で認められたものだけに限定されるわけです(労基法37条5項、労基法施行規則21条)。
具体的には、除外賃金と認められるのは、次の①~⑦の手当・賃金のみです。その他の手当・賃金は、除外賃金にはなりません。
除外賃金に該当するか否かは実質を備えているか否かで判断する。
以上の通り、除外賃金に該当するものは、上記①~⑦の賃金に限られます。
支給される給与のうち、①~⑦に該当するものが多ければ多いほど残業代は少なくなり、①~⑦に該当するものが少なければ少ないほど残業代は多くなります。
もっとも、ここで注意を要するのは、これらの手当に該当するかは、名目ではなく、実質で判断される、という点です。
支給の際の名目だけ、上記①~⑦のどれかにしておけば、除外賃金になる、というわけではありません(逆もまたしかりですが・・・。)。
たとえば、②通勤手当という名目で500円を支給していた場合であっても、その実質が単なる給与にすぎない場合(通勤の距離・実費と無関係に一定額支給されるような場合)には、これは除外賃金には該当しない(残業代算定に際して控除されない)、ということになります。
弁護士に相談を
上記の通り、①~⑦に該当するかは、名目ではなく、その実質を備えているかで判断されるため、残業代算定に際しては、上記①~⑦の除外賃金に該当するといえるために、どのような要素が備わっていればよいのかが、さらに問題となります。
実際の裁判でも、ある賃金・手当が①~⑦に該当するか否かが争点となることも少なくありません。
残業代請求・対応につき、ご不安がある場合には、ぜひ一度、ひびき法律事務所(北九州の弁護士の事務所)にご相談ください。