本記事は、近年・専門性・複雑性を増す残業代請求に関し、労使ともに抑えるべき基本的な情報を提供するものです。
今回のテーマは「時間外・深夜・休日労働に関する割増賃金」です。
そもそも残業代って何?というところを解説します。
残業代とは
残業代という言葉は、社会的に広く周知されている言葉ですが、労働基準法や労働契約法には出てきません。
ただ、一口に「残業代」というときには、会社等の使用者が労働者に支払うべき次の4つの賃金を総称して指すことが多いと思われます。
①時間外労働に対する割増賃金
②深夜労働に対する割増賃金
③休日労働に対する割増賃金
④法内残業に対する賃金
4種の残業代について
上記の内、我々弁護士がしばしば関与するのは、①~③ですが、④と合わせてそれぞれ見ていきます。
①時間外割増賃金
残業代のうち、最も典型的なものとしてイメージされるのが①時間外労働に対する割増賃金です。これを時間外手当とか時間外割増賃金などと言います。
労働基準法は、原則論として1日8時間又は週40時間を超える労働については、使用者は、割増賃金を払わなければならないとしています。
その割増率は、125%以上です。使用者は、通常の賃金に25%以上を上乗せした賃金を支払わなければならない、ということになります。
また、1日8時間又は週40時間を超える労働が月に60時間を超える場合、その時間を超過する労働に対する割増率は150%以上となります(中小企業には月60時間を超えても割増率は125%とする猶予が認められていましたが、2023年4月からその猶予は廃止されます)
「サービス残業がなされている」という場合の多くは、この①時間外労働に対する割増賃金も使用者が支払っていない場合を指します。
②深夜割増賃金
使用者が従業員に②深夜労働をさせる場合にも、使用者は労働者に対して割増賃金を支払う必要があります。この手当のことを深夜割増賃金といいます。
その割増率はやはり125%以上です。
残業代の算定において、「深夜」というのは、午後10時から午前5時までの時間を指します。
たとえば、24時間影響のコンビニで午前0時から午前6時まで、といったシフトを組んで労働をさせる場合、午前0時から午前5時までの時間の勤務については、使用者は労働者に対して割増賃金を払う必要があります。
ちなみに、1日8時間を超えた時間外労働が深夜労働にも該当する場合、最低割増賃金率は、150%となります(時間外労働分の25%分+深夜労働分の25%分を通常賃金に上乗せすることを要する。)
③休日手当
さらに使用者は、法定休日に労働者に仕事をさせた場合には、割増賃金を支払わなければなりません。
労働基準法は、使用者は、少なくとも、1週間に1日又は4週を通じて4日は労働者に休日を与えなければならないとしています。
この休日のことを法定休日と言います。
この法定休日に労働者を働かせた場合、使用者は、通常の賃金に35%分以上を割り増した割増賃金を労働者に払わなくてはなりません。
4週4休制を採用していない会社において、どうしても忙しい時期に、労働者に7日連続で仕事をしてもらったという場合、使用者は労働者に対して、休日手当を支払わなければならない、ということになります。
ちなみに、法定休日における労働が深夜労働にも該当する場合、その割増率は、160%(休日労働35%+深夜労働25%を通常賃金に上乗せすることを要する)になります。
参照:法定休日労働と割増賃金
④法内残業
最後に法内残業についてです。
会社によっては、1日の所定労働時間を7時間、週5日勤務としているような場合があります。
この会社において、週5日、1日8時間労働者に働いてもらったとすると、労働者は所定労働時間を超えて1日1時間、1週間合計で5時間分、残業をしている、ということになります。
ただ、この場合において、労働者が働いた時間は、1日8時間・週40時間という労働基準法が定める時間を超えません。そのため、労働基準法が定める割増賃金は発生しません。
この場合、会社が、法内残業分の賃金を支払うべきことは当然ですが、通常の賃金にさらに割増をしなければならないかは、会社・従業員間の労働契約の内容によって判断することになります。