破産というのは、自らの借金・債務の清算をし切れなくなった債務者が、その財産を精算する手続をいいます。

個人が破産する場合には、換価可能な財産を清算しつつ、裁判所から免責の決定を受けることにより、借金・返済の責任を免れえます。

参照:破産法の目的と破産手続

参照:自己破産における免責について(概略)

この破産手続において、極めて重要な概念となるものの一つが、「支払不能」という概念です。

「支払不能」は破産開始原因一つにもなっているほか、免責許可事由の有無等を判断するための重要な要素となります。

たとえば、支払不能となった後に、特定の人物にのみ借金を返済するといった行為は、免責不許可事由の一つとなりうるのです。

今日は、この支払不能という概念について解説します。

支払不能とは

破産法上、支払不能については、法第2条で次のように定義されています。

「支払不能」=債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態。

これは、おおざっぱに言えば、自らの家計の状況等に照らして、現在の借金・負債を返済し切れなくなった状態のことです。

破産というのは、自らの借金や負債を返済し切れなくなった債務者に適用される法的整理ですから、借金や負債を返済しきれなくなったと言えるか否かを判断することになるわけです。

※もう一歩前へ
なお、上記条文の定義を巡っては、特に「その債務のうち弁済期にあるもの」という文言に関連して、学説上の対立がありますので一応ご紹介。難しければ読み飛ばしてください。<債務不履行必要説>
支払不能と言えるためには、債務者が債務不履行に陥っていることが必要という説<債務不履行不用説>
支払不能といえるためには、債務者が債務不履行に陥っているとことを要しないという説

<無理算段説>
支払不能といえるためには、原則として債務不履行が必要であるが、債務不履行であることが無理算段により糊塗されたような場合には支払不能と認定できるとする説

詳細は次の記事参照。

参照:無理算段説


支払不能か否かの判断要素

自らの借金や負債の清算をし切れなくなったといえるか否かは、弁済能力、すなわち、一般的・継続的に借金・負債に対する支払いを行っていく能力がないと客観的に言えるか否かによって判断されます。

この能力のことを、弁済能力といいます。

弁済能力の有無は、現金や預貯金等の資産等も考慮して判断されますが、それだけで判断されるものではありません。弁済能力は、財産、労務、信用といった事情を総合的に評価して決せられます。

たとえば、単に今、手元に現金がない、という状態でも、今後、毎月の労働によって多額の収入が有るといえる場合には、弁済能力を判断するにあたって、その収入の程度や確実性を考慮する必要があります。

反面、今、手元に多少の現金があるとしても、労働等による継続的な収入が全く見込めない場合には、その事実も弁済能力の評価要素とせざるを得ません。

その他、経済的信用も評価要素の一つになります。

当該人物の有する経済的信用が極めて高い、と言う場合には、弁済能力の評価を高める方向で、当該事実が斟酌されます。

財産がなくとも、経済的信用に基づき返済原資を確保できるのであれば、弁済能力は肯定され得るというわけです。

支払不能か否かは客観的に判断される

上記のとおり支払不能か否かは、財産・労務・信用と言った諸要素を考慮の上判断されます。

そして、その判断は、客観的に為されるべきものとされており、債務者の認識は問われません。

すなわち、当該債務者の財産状況や労働収入等に照らしてみて、社会通念上、債務者は、当該借金を一般的・継続的に返済しきれない、と言った場合には、本人が、「いや払えるはず」と認識していても、やはり支払不能に該当します。

加えて、一見して弁済はできていても、その弁済原資が、返済の見込みのない他社からの借り入れによって賄われているにすぎないような場合でも、やはり、客観的な弁済能力が欠けていれば、支払不能に該当することとなります。

目安としての判断基準

支払不能を上記のように判断すると言ってみても、良く分からない、結局、一般的な自己破産において、結局どの程度の借金があれば支払不能となるのか、そのメルクマールが知りたいという方もいらっしゃるかと思います。

しかし、やはり、上記のとおり、弁済能力の有無が諸事情を考慮の上で決せられる事柄であるため、画一的には決せられません。一義的な基準を示すことは不可能です。

ただし、これらの事情を念頭において頂いた上で、あえて参考とするならば、家計の状況に照らし、借金・負債の現在の総額(将来の利息は考えない)を分割して3年程度で返済できるか否かを検討するのがよいかと思います。

もちろん、3年あれば完済できるというケースでも、当該債務者が置かれている状態によっては、支払不能に該当することはありますので、一概に判断はできないのですが、一つの目安にはなりえます。