相続は、人が亡くなったのと同時に開始します。

ある人が亡くなった場合(以下、亡くなった人を「被相続人」といいます。)、その相続人は、被相続人が亡くなった時に遺産を承継します。

この点、相続人が一人の場合には、相続人は相続開始時に被相続人の遺産を単独で承継することになり、遺産の分割は問題になりません。

これに対して、相続人が複数いる場合には、相続人らは、相続開始時から遺産を共有することになります。

遺産分割というのは、この共有に属する被相続人の遺産を、共同相続人らが分配・分属する手続きです。

参照:相続について

そして、この遺産分割の手続きには、法律上①遺言による遺産分割、②協議による遺産分割、③調停による遺産分割、④審判による遺産分割の4つがあります。

以下①~④の順に紹介します。

なお、遺産分割の手続きを円滑に行うには法律上の知識が不可欠であるため、遺産分割に関する相談は、弁護士が良く受ける相談の一つです。

①遺言による遺産分割

まず、①遺言による遺産分割についてです。

民法908条には、「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託」することができると規定されています。

ここでいう「遺産分割の方法」というのは、大ざっぱに言うと、遺産分割のあり方のことを指します。

遺言において、誰に何を相続させるか、相続させる人、相続させる遺産を個別具体的に定めることで、遺産分割の在り方を決めることができるのです(ただし、この定めにより遺留分侵害の問題が生じることがある点には注意が必要です。)。

これを遺言による遺産分割といいます。

参考 :遺言書とは

参考 :遺留分について

なお、遺言書で遺産分割の方法を定めた場合、遺言執行者がその遺言の内容を実現することになります(遺言執行者は遺言で指定されるか、申し立てにより家庭裁判所が選任する。)。

②協議による遺産分割

次は、協議による遺産分割、いわゆる遺産分割協議による分割についてです。

協議による分割というのは、相続人がどのように遺産を分割するのか話し合い、相続人全員が合意をすることにより成立する遺産分割です。

この遺産分割協議による遺産分割が可能な場合、全員の合意さえ整えば、その内容は、相続人らで自由に決めることができます。真に合意さえできれば、共同相続人のうちの一人が取得する相続財産(積極財産)をゼロとする協議を成立させることも可能です

また、たとえば、北九州市の不動産(評価額1000万円)と東京に不動産(評価額1500万円)、合計2500万円相当の財産を有する被相続人が亡くなり、その相続人として、相続持分を2分の1ずつ有するAとBが存在するというケースがあるとします。

この場合においては、相続持分に従えば1250万円相当の遺産をそれぞれ承継することになりますが、これに反して、AとBの合意により、Aは北九州の不動産を、Bは東京の不動産を相続するという内容の遺産分割をすることも可能です。

真に合意が存在する以上、各土地(1000万円と1500万円の評価額)の評価額の多寡と相続持分(各1250万円)との間にギャップが存在しても、遺産分割協議は成立します。

なお、遺産分割協議が成立した場合、協議が整ったことを証するために、遺産分割協議書を作成するのが通例です。

③調停による遺産分割

遺産分割の3つめの方法は調停による遺産分割です。

上記の通り、遺産分割協議は、相続人全員の合意が整うことが前提となっています。

しかし、相続人間で協議ができない、あるいは協議ができても合意が整わないというケースは当然に生じます。こうした場合に利用できるのが、家庭裁判所における遺産分割調停です。

遺産分割調停は、相続人全員の合意を前提としている点で、遺産分割協議と同質ですが、家庭裁判所の調停委員・家事審判官が関与する点に違いがあります。

専門知識を有する公平な第三者が調停に関与することで、円滑な話し合いの実現が期待されているのです。

また、調停により合意が成立した場合、家庭裁判所は調停調書という書面を作成します。

この調書には、確定審判(審判については次に述べる)と同一の効力があり、調停の内容が任意に実現されない場合、調停により権利を取得した相続人は、調停調書に基づいて強制執行をすることが可能となります。

④審判による遺産分割

最後に、審判による遺産分割についてです。

遺産分割の調停は、上記の通り、相続人全員の合意を前提としていますので、いかに調停委員や家事審判官の関与があるとはいえ、成立にいたらない場合もままあります。

こうした場合に、家庭裁判所が、職権で遺産分割の内容を定めるのが審判による分割手続です。

家庭裁判所は、遺産分割の審判をする場合、相続人全員の公平性・平等性を考慮しなければなりませんが、その他にも、調停・審判手続に現れた一切の事情を加味して、分割の内容をさだめます。

このとき、相続人の意思・希望も家庭裁判所の加味考慮の対象になると考えられますが、家庭裁判所は、終局的には、相続人の意思にそぐわない、合致しない審判をすることも可能です。

これにより、相続人間の協議が整わない場合における遺産分割の問題を解決することが期待されているのです。

そして、この審判が行われた場合、所定の期間内に不服申し立ての手続きがとられない限り、審判内容が確定します。

審判が確定した場合、審判時に作成される審判調書に執行力が付与され、審判により権利を取得した相続人は、審判に基づき強制執行をすることが可能になります。