本記事は、近年・専門性・複雑性を増す残業代請求に関し、労使ともに抑えるべき基本的な情報を提供するものです。

今回のテーマは、「月給制における割増賃金の単価」です。

ここで、月給制というのは、月を単位にして、給与が支払われる給与体系のことを指します。
月給制の場合、給与は、月額〇〇円などと定られるのが一般的です。

月給制は、もっとも一般的な給与制度ですが、時間単価の算定には一定の知識が必要です。

以下、具体例と一緒に見ていきましょう。

割増賃金における時間単価について

割増賃金、つまり残業代がいくらになるかは、次の計算式で算定されます。

【計算式】残業時間×1時間あたりの単価×割増賃金率

たとえば、1時間当たり1500円で働く労働者が、所定の勤務日の夕方、2時間分、時間外労働を提供したという場合、通常、残業代は2時間×1500円×1.25=3750円と算定されます。

他方で、1時間当たりの単価が1000円である場合、2時間の時間外労働に対する残業代は、通常、2500円となり(2時間×1000円×1.25)、時間単価1500円の場合と比較すると、1250円もの差が生じます。

残業代請求の対象となる期間における残業時間が時に数百時間にも及ぶことを考えると、時間単価がいくらになるのかは、残業代請求における極めて重要な要素となります。

参照:時間外・深夜・休日労働に関する割増賃金と法内残業

月給制における時間単価

では、月給制において、一月当たり30万円という給与が定められている場合の時間単価はどのように算定するのでしょうか。

時間単価の算定方法

この点、所定労働時間が短い月(2月などは、所定労働時間が短いことが多い)を基礎として時間単価を算定すると、割増賃金の単価は大きくなりますし、他方で、所定労働時間が実長い月を基礎とすると、労働者の給与における時間単価は小さくなります。

そして、同じ労働者の1時間当たりの労働単価が月ごとに異なる、というのも不自然です。

そこで、各月の労働単価を均すべく、月給制において1時間当たりの単価は次の算式によることになります。

【計算式】1時価当たりの単価=月給÷月平均所定労働時間

ここで月平均所定労働時間というのは、1年間の所定労働時間を12か月で割って算出したものです。

要は、1年を通した所定労働時間を12で割って、月の平均所定労働時間を算出し、それを基礎に1時間あたりの単価を算定する、ということになります。

ちなみに、月の平均所定労働時間が174時間を超える場合は注意してください。所定労働時間が労基法の定める労働時間の上限を超えていることが考えられます。

参照:年所定労働時間が法定労働時間の上限を超える場合の割増賃金の単価

月平均所定労働時間及び時間単価の計算例

たとえば、次のケースのように、1年間の所定労働時間が合計2083時間となる場合を考えてみましょう。

この場合、一月当たりの平均所定労働時間は173.583333、となります(小数点第三位以下を切り捨てるなどの処理をする場合もあります)。

【計算式】2083時間÷12か月=173.583333・・・、

そして、月給が30万円だとすると、その割増賃金の単価は、1728円(小数点以下四捨五入)と算定されます。

【計算式】30万円÷173.583333≒1728円

したがって、上記のケースでは、時間単価は1728円と算定されます(端数処理についてはここでは説明を割愛します。)。

このケースでたとえば2時間残業が提供されたとすれば、通常、割増賃金は合計4320円(1725円×2時間×1.25)となります。

時間単価が最低賃金を下回る場合

ところで、2019年12月現在において、北九州市における最低賃金は841円です。

所定労働時間が2083時間のケース(月平均所定労働時間173.583・・・)では、たとえば、月給が14万0000円だと、労働者の賃金は、最低賃金を下回ることになります。

【計算式】14万0000円÷173.583≒806.5円

これでは、最低限度の賃金を支給したことにはなりません。この場合には、法律の効力により、労働者に支給すべき給与は、1時間当たりの最低賃金(2019年12月現在における北九州では841円)で算定されることになります。

したがって、上記契約において、労働者が2時間時間外労働を提供した場合には、使用者が支給すべき残業代は、2時間×841円×1.25で算定されることになります。

参照:最低賃金法4条1項及び2項
1 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。