本記事は、近年・専門性・複雑性を増す残業代請求に関し、労使ともに抑えるべき基本的な情報を提供するものです。

今回のテーマは、「年所定労働時間が法定労働時間の上限を超える場合の割増賃金の単価」です。

以下、具体例とともに見ていきます。

月給制における割増賃金の単価

前回書いたコラムでは、割増賃金の基礎となる時間単価を算出する方法を説明しました。

簡単に言えば、まず、年間の所定労働時間を12で割って算出する月平均所定労働時間を算出し、次に、月給を月平均所定労働時間で割る、という方法です。

30万円の月給で、年間の総所定労働時間が2083時間の場合、1時間当たりの賃金は、次のように算定されます。

① 月平均所定労働時間=2083時間÷12
② 時間単価=30万円÷月平均所定労働時間

そして、この①と②の計算式を合わせると、結局1時間当たりの賃金は【30万円÷(2083時間÷12)】で算出されることになります。

参照:月給制における割増賃金の単価

所定労働時間が法定労働時間の上限を超える場合

多くの企業・仕事において、残業代算定のための時間単価は、上記のような計算で算出できるはずです。

しかし、本来、あってはならないことですが、労働者の年間の所定労働時間が、労働基準法で定められた年間の法定労働時間を超えている、という場合があります。特に、年度の途中で労働時間制度を変更したといった場合に、このような問題は生じがちです。

上記で示した計算式は、年間の所定労働時間が法律で定められた労働時間の枠内に収まっていることを前提としますので、労働者の年間の所定労働時間が、労働基準法で定められた年間の法定労働時間を超えている場合には、修正が必要となります。

年間の法定労働時間の合計

労働基準法の原則的なルールでは、1週間の労働時間の上限は40時間です(なお、一部例外として週44時間が認められている場合もある)。

これを365日で換算すると、年間の労働時間は、2088時間ないし2096時間(うるう年の場合)が上限となります。

1年単位の変形労働時間が採用されているといった場合等を除き、多くの会社・企業では、この時間が年間の労働者の労働時間の限度ということになります。

時間単価の算定

1年365日の通常の年において、ある会社における労働者(月給30万円)の年間の法定労働時間が2088時間を超えて2220時間に及んでいる場合を想定しましょう。

この場合、先ほどの計算式に基づけば、労働者の労働に対する1時間当たりの単価は、次の計算式で算出されることになります(説明の簡略化のため端数は省きます。)。

【計算式】30万円÷(2200時間÷12)≒1621円

しかし、上記の通り、法律上の年間の労働時間の上限は2088時間です。そのため、時間単価の算定に際しては、こちらを基礎としなければなりません。

①月平均所定労働時間=2088時間÷12
②時間単価=30万円÷月平均所定労働時間

そうすると、1時間当たりの単価は結局次のように算出されることになります。

【計算式】30万円÷(2088時間÷12)≒1724円

結果を比較すると明らかですが、年間の所定労働時間が法定の労働時間の上限を超える場合、法定労働時間の上限を基礎とする方が、割増賃金の単価は高くなります。

弁護士にご相談を

上記のような1時間当たりの賃金単価の算定については、実際上、割増賃金の基礎となる月給をどのように考えるか、変形労働時間が採用されていないか、など、考慮・確認すべき要素は複数あります。

ひびき法律事務所では、北九州地域を中心に、法律サービスを提供しています。残業代請求やその対応につき、ご不安がある場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。