本記事は、近年・専門性・複雑性を増す残業代請求に関し、労使ともに抑えるべき基本的な情報を提供するものです。

今回のテーマは、「法内残業における賃金」です。

以下、労働基準法の割増賃金の対象となる時間外労働と対比させて、同法の割増賃金の対象と法内残業について見ていきます。

労働基準法の割増賃金の対象となる時間外労働について

割増賃金に関する労働基準法上の原則的なルールとして、1日8時間・1週間40時間を超えた労働に対しては、使用者は、割増賃金を支払わなければならないとされています。

たとえば、月曜日から金曜日まで、会社所定の労働時間が7時間である企業において、従業員が、火曜日と木曜日にそれぞれ9時間労働を提供したとします。

この場合、火曜日と木曜日については、8時間を超えて、1時間ずつ労働が提供されています。

そのため、使用者は合計2時間分の割増賃金(通常の賃金に25%以上の割合による金員を割り増した賃金)を支払う必要があります。

たとえば時間単価1000円で労働が提供されていた場合において、時間外労働がなされた場合、使用者は労働者に対して、1時間あたり1250円以上の賃金を払う義務を負うことになります。

参照:1日8時間、1週間40時間の時間外労働算定の具体例

法内残業と賃金

では、上記のように会社所定の労働が7時間である企業において、月曜日から金曜日まで、それぞれ8時間労働が提供された場合はどうでしょうか。

なお、ここでは便宜のため、土曜日・日曜日を休日とする例にて説明します。また、1日8時間を超える労働は提供されていないことを前提とします。

法内残業の発生

法内残業というのは、所定労働時間を超える労働(残業)ではあるが、労働基準法上、割増賃金の対象とはならないものを言います。

上記の例においては、会社の所定労働時間は1日7時間ですから、従業員は、月曜日から金曜日まで、それぞれ1時間ずつ所定労働時間を超えて、労働を提供した(残業が発生した)ことになります。

しかし、労働基準法が定める原則的なルールにおいて、「割増」賃金の対象となるのは、1日8時間・1週間40時間を超えた労働部分であり、上記の例では、月曜日から金曜日までの労働は、いまだ1日8時間の労働の枠内に収まっています。

そのため、労働者の残業部分(7時間超・8時間内の労働部分)は、労働基準法の割増賃金の対象とはなりません。

法内残業に対する賃金の支給

もっとも、法内残業に対して、従業員は何ら残業代を請求できないかというと、そうではありません。

所定労働時間を超えて労働を提供した部分につき、割増にはならないものの、労働者は当然、その労働に対して賃金を請求することができます。

たとえば、時間単価1時間1000円で労働が提供されていた場合において、所定労働時間を超える法内残業がなされた場合、労働者は、通常の賃金に付加して、1時間当たり1000円の賃金を使用者に請求することが可能です。

図でいえば、所定労働時間が8時間の会社においては、ピンク色にて色分けした部分につき、使用者は、割増にする必要はないものの、労働者に対してやはり賃金を支給する義務を負う、ということになります。

参照:時間外・深夜・休日労働に関する割増賃金と法内残業