有期雇用契約期間中の解雇有期雇用契約というのは、たとえば、1年間の雇用期間を定めて、従業員を雇用する契約をいいます。

この有期雇用契約を巡るトラブルの中でも、労使の対立が先鋭化するケースの一つが①契約期間中の解雇です。

本記事では、この①契約期間中の解雇に関する民法及び労働契約法上の規制について紹介します。

なお、有期雇用契約の期間に関しては、その上限につき、労働基準法上の規制があります。この点については、次の記事をご参照ください。

参照 有期雇用契約における雇用期間について

契約期間中の解雇は厳格な規制に服する。

たとえば、1年間の雇用期間を定めた契約をしている場合、雇用から1年が経過する前に、使用者が従業員との労働契約を一方的に解約するのが、有期雇用契約における契約期間中の「解雇」です。

有期雇用契約における契約期間中の解雇は、契約期間の定めのない労働契約における解雇よりも厳格な法規制に服します。

一旦、期間を定めて契約した以上、その期間に関しては、労働者の地位を保護する要請がより強く働くためです。

民法の比較

期間の定めのない労働契約における解雇と有期雇用契約における契約期間中の解雇に関して、まず民法の規定を比較してみます。

期間の定めのない労働契約における解雇

民法第627条1項前段は、期間の定めのない労働契約に関し、次のように定めています。

<民法第627条1項本文前段>
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。

民法の定めによれば、期間の定めのない労働契約に関し、当事者は、「いつでも」雇用契約を解約できることになります。

有期雇用契約における契約期間中の解雇

他方、民法628条1項前段は、有期雇用契約における契約期間中の解雇に関し、次のような規定を置いています。

<民法628条1項前段>
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。

ここでのポイントは。「やむを得ない事由があるとき」は、当事者は契約を解除できると定めている点です。

この規定の反対解釈により、有期雇用契約において契約期間中に解雇するには、「やむをえない事由」が必要と解されています。

有期雇用契約の方が厳格に判断される

上記の通り、民法を比較すると、期間の定めのない労働契約であれば、使用者は、「いつでも」雇用契約を解約(解雇)できるのに、有期雇用契約においては「やむをえない事由」がなければ、解雇できない、ということになります。

有期雇用契約における解雇の方が、契約期間の定めのない労働契約における解雇よりも厳格な法規制に服し、解雇が容易には認められなくなっています。

労働契約法の比較

労働契約法の比較上記、民法のルールは、以下述べるとおり、いずれも労働契約法により修正されます。

ただし、無期の場合と比して、有期雇用契約における解雇の方が厳格な規制に服するという労働契約法上も維持されています。

この点に関し、以下、労働契約法第16条及び同法第17条を確認してみましょう。


期間の定めのない雇用契約における解雇

期間の定めのない雇用契約における解雇に関して、労働契約法第16条は、次のように定めています。

<労働契約法16条>
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法16条の規定によれば、有効に解雇するためには、解雇につき、次の二つの条件を満たす必要があります。
<二つの条件>
①解雇につき客観的に合理的な理由が存在すること
②当該解雇が社会的通念上相当といえること

そして、この二つの上限が満たされていることの証明責任は使用者に課され、その立証がされない場合には解雇が認められません。

そのため、期間の定めのない雇用契約であっても、解雇につき使用者に重いハードルが課せられているといえます。

参照:解雇に関する基礎知識(解雇権の根拠・制限・手続等)

有期雇用契約における契約期間中の解雇

上記のとおり、期間の定めのない雇用契約であっても、使用者が労働者を解雇するには重いハードルが課せられますが、有期雇用契約においては、さらに厳格な条件が課せられます。

すなわち、労働契約法第17条は、上記第16条の定めに続けて、次のように定め、「やむを得ない事由」がなければ、使用者は、契約期間中に有期雇用契約上の労働者を解雇することはできないと定めています。

<労働契約法17条1項>
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。


ここにいう「やむを得ない事由」が存するといえるためには、概していえば、次の3つの条件を満たすことが必要と解されます。
<3つの条件>
①客観的に合理的な理由が存在こと、
②当該解雇が社会的通念上相当といえること
③期間満了を待たずに直ちに雇用を終了させざるをえない重大な理由があること

有期雇用契約における契約期間中の解雇に関しては、①及び②に加えて、③の条件が課されるため、期間の定めのない雇用契約よりも、解雇が認められるケースはさらに限定的となっています。

一度、専門家にご相談ください

上記の様に、有期雇用契約における契約期間中の解雇はかなり厳格に判断されます。

ところが、使用者側、労働者側ともに、有期雇用契約(正社員ではない)ことから、正社員ほど保護されないだろう、という感覚を有しているのかもしれません。

実際に弁護士として、法律相談を受けてみると、有期雇用契約期間中の解雇を巡るトラブルにおいては、使用者側の「解雇できるはず」だという感覚、又は、労働者側の「解雇もしょうがないのだろうか」という感覚と、法律的に見込まれる結論との乖離が著しいように感じます。

この有期雇用契約期間中の解雇を巡る問題は、一度、専門家にご相談していただければと殊に思う問題の一つです。