人が亡くなった場合、通常は、その亡くなった人を被相続人とする相続が開始します。

ところが、そもそも相続する人がいなかったり、相続する人がいても、その全員が相続放棄をしたりすると、相続をする人がいないという状態が発生します。

参照:相続放棄について

参照:相続について

こうした場合に備えて、民法は、第5編第6章に「相続人の不存在」という章を設けて、相続財産管理人の制度を整備しています。

相続財産管理人制度の骨子

相続財産管理人制度は、相続人のあることが明らかでない相続財産について、その管理人(相続財産の代表者)として選任された相続財産管理人が、相続人の捜索,相続財産の管理・清算を行うことを骨子としています。

平たく言えば、相続財産管理人が、相続人調査をしたうえで、遺産をお金に代えて、負債の処理・清算を行うという制度です。

相続人の捜索・確認

相続財産が選任されるのは、「相続人のあることが明らかでない」場合と規定されています。

相続人がいないと確定した場合に選任されるのではなく、相続人が存在しているのか分からない、という条件の下で選任されることが建前となっています。

相続財産管理人が選任された場合であっても、もしかしたら、実際には相続人がいるかもしれません。

そこで、相続人が選任された後も、相続財産管理人が選任された旨を広く周知する公告等の手続きが採られます。

相続財産管理人は、この公告等を介して相続を知り得た相続人が現れないか、確認します。

相続財産の管理・清算

また、相続財産管理人は、相続財産を管理する他、資産価値のある財産を換価したり、相続債権者等に対する弁済等をして、相続財産の清算を行います。

たとえば、不動産についても、相続財産管理人は、裁判所の許可を得れば、単に不動産を管理するだけでなく、売却等の処分をすることが可能とされています。そして、その売却代金は、いまだに弁済を受けていない債権者への弁済の原資等になります。

被相続人に対して何らかの金銭的請求権を有していた債権者が、こうした相続財産管理人による換価・清算手続に期待して、裁判所に相続財産管理人の選任を求める手続きをとることも少なくありません。

たとえば、マンションの管理組合が、区分所有者であった被相続人の滞納管理費を回収するために、相続財産管理人を申し立てるというのもその例です。

特別縁故者への財産分与

上記のとおり、相続財産管理人は、選任後、相続人捜索及び相続財産の管理・清算を行いますが、債権者などへの弁済を終えてもなお、相続財産が残ることがあります。

また、相続財産管理人選任後、相続人捜索の公告という手続きを経た場合、相続人が仮に存在したとしても、当該相続人は、所定の期間内に相続人として権利を主張しない限り、その権利の行使することができなくなります。

この場合において、家庭裁判所が相当と認めるとき、被相続人の療養看護に勤めた者その他特別の縁故が有った者は、一定の期間内に請求をすることによって、精算後残存する相続財産の全部又は一部を受け取ることができます。

これが特別縁故者への財産分与と呼ばれる制度です。

被相続人の療養看護に務めた等、特別の縁故がある者が、特別縁故者であることを主張して、相続財産管理人の制度を使うべく、その選任を家庭裁判所に求めることもあります。

弁護士がこの特別縁故に関する相談を受けることも少なくありません。

国庫への帰属

以上のような相続財産の清算や特別縁故者への財産分与手続(これが無かった場合も含む)等を通じて、なお残存した相続財産は国庫に帰属します。

ただ、相続財産は、自動的に国庫に移転するのではなく、相続財産管理人が国庫への引継手続を完了した時点が相続財産の国庫への帰属時期と解されています(最高裁昭和50年10月24日判決)。

そのため、残余財産の国庫への帰属のため、相続財産管理人による相続財産の引き継ぎ手続きが行われます。

この引継ぎをもって、相続財産管理人の管理権限は消滅し、相続財産管理人の業務も終了します(なお、実際にはその前に、それまで管理・清算などを行ってきた相続財産管理人へ報酬が支払われます。)。