任意整理とは、裁判所を介さずに、債権者と交渉して、分割弁済の合意をしていくことで、借金の負担を軽減し、借金問題を解決する手続です。
分割弁済の合意に際して、分割払いをきちんと続けていく限り、今後の利息は付けない、との合意を行いますので、借金の負担がぐっと減ります。月々の返済を行うことで、確実に元金が減っていくのです。
積立金とは
弁護士が任意整理を受任する場合、ケースによっては、任意整理の交渉開始まで、あるいは交渉中、一定の金銭を積み立ててもらう場合があります。
弁護士が借金問題に介入すると、債権者らから随時、借金額を明らかにする資料(取引明細など)が送られてきます。
複数の債権者が居る場合、これが出そろうまで早くて2~3か月、場合によってはもっと時間を必要とする場合もあります。
弁護士の介入によって、債権者・貸金業者からの請求自体は停まっていますので、この間、依頼者は、当該債権者への返済はせずに済みます(参照:任意整理の手続の流れ)。
そこで、弁護士介入までに、依頼者が貸金業者に支払っていた金銭あるいはその一部を積み立ててもらうわけです。これが積立金です。
たとえば、毎月3万円ずつ積み立ててもらうとして、3か月積み立てれば、9万円、4カ月積み立てれば12万円が積み上がっていきます。
積立金の目的
積立金の目的は主に3つです。
- 弁護士費用の支払い
- 和解金の確保
- 方針変更時の予納金確保
弁護士費用の支払い
任意整理の弁護士費用で負担となるのは、基本的には、「着手金」です。事務所によっては、任意整理が成功した場合に「成功報酬」を貰う事務所もあるのかもしれませんが、少数だと思います。
この着手金ですが、仕事の開始前に弁護士に、一括で支払うのが一般的です。ただ、債務整理という業務の性質上、一括払いが難しい、という依頼者もすくなからずいらっしゃいます。
こうした場合に、毎月の積立金を弁護士の着手金に充てるわけです。これは事実上弁護士費用を分割払いするのと同じです。
和解金の確保
任意整理手続を採った場合、債権者・貸金業者との交渉成立後、月々の返済が開始します。
毎月、3万円ずつ支払いましょう、5万円ずつ支払いましょう、こうしたことが決まるわけです。
ただ、債務総額によっては、月々の負担が重くなります。毎月4万5000円なら払えるけど、5万円だと厳しい、こうしたケースも存在します。
こうした場合に、積立金があれば、その積立金を返済の頭金に充てて、月々の返済の負担を減らすことができます。
また、債権者の中に、ごく少額の債権者が居る場合、積立金で支払いきれるのであれば、支払いを完了してしまった方がいいケースもあります。毎月の弁済手数料(振込手数料)などの節約・時間的節約になるからです。
方針変更時の予納金確保積立金の金額
さらに、弁護士が任意整理で仕事を受けた場合でも、依頼者の収入減や債権額が予想外に大きい等の事情がある場合、債務整理の方針を任意整理から自己破産や個人再生手続に変更することがあります(参照:任意整理から自己破産・個人再生への方針変更・切り替え)。
こうした法的整理に移行する場合、ケースによっては、破産管財人の費用や個人再生委員の費用を裁判所に予納することが必要になります。
任意整理で積み立てた積立金は、こうしたケースにおいて、裁判所への予納金に充てられることもあります。
積立金の金額は、一概には決まっていません。
ただ、毎月、一定額を弁済することが可能でなければ任意整理はできません。積立金の額は、このシミュレートを兼ねて毎月の弁済額として見込まれる金額を目安に決定するのが便宜です。
たとえば、任意整理が完了した場合、毎月5万円ずつの支払いが必要になることが見込まれる、というケースでは、5万円前後の金額を積み立ての目安とする、ということになります。
積立の方法
積立の方法は、法律事務所指定の預り金口座に月に1回、積み立てていただくのが一般的です。
ただ、ご本人が弁護士の関与なく、毎月自分の意思で積み立てができるかどうかもポイントになりますので、普段使っていないご本人の口座に積み立てをしてもらうというケースもあります。
この積立が難しいようであれば、毎月の弁済額を想定より小さいものにしないと、完済が難しいかもしれない、などの判断の材料になります。
他方で、依頼者が十分な余裕をもって積み立てられるようであれば、弁済期間をより短く調整するか、依頼者と協議する契機にもなります。
約束の積立金が払えない場合
もし約束した積み立てができない場合、今後の方針や積立の方法につき、弁護士に相談をしてください。
特に、積立額が、毎月の収支において経済的に厳しい、という場合に、これを弁護士が把握しないまま、任意整理を続行しても、支払いが滞って、任意整理が失敗に終わってしまう可能性が高くなってきます。
せっかく弁護士に依頼した任意整理ですので、可能な限り、失敗の目は取り除くべきです。
場合によっては、任意整理から法的整理への方針変更も検討しないといけないかもしれません。
積立金は返金してもらえる?
積立金を弁護士口座に振り込んでいる場合、この振込金の性質は弁護士への預け金です。
したがって、もし任意整理自体を取りやめて、弁護士との委任契約を解除する、ということになれば、原則として返金を受けられるのが一般的です。
ただ、弁護士費用の内、支払っていない着手金がある場合は、要注意。
この場合は、積立金の額にもよりますが、弁護士が当初受け取るべきとされた着手金に充当され、返金が受けられないというケースも生じえます。
なお、弁護士との契約を解除する場合に、どの程度の着手金を支払わなければならないか(ここでは、積立金がどの程度の額の着手金の支払いに充てられるか)は、個別の弁護士との契約内容・弁護士が行った業務の程度・段階などを勘案した具体的案件ごとの判断となります。