ビジネス実務法務入門連載、今回のテーマは「履行遅滞」についてです。
前回の記事では「債務不履行」について概説しました。
参照:債務不履行責任について
そこでは、債務不履行に関し、概念上、次の3つの類型に分けることが可能と説明しています。
➀履行遅滞
➁履行不能
➂不完全履行という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
今回の記事は、上記➀~③のうち、➀について説明するものです。
履行遅滞とは
履行遅滞は、大雑把に言えば、債務者が、契約上の義務を果たすべき時までに、その義務を果たさないことをいいます(厳密には、次で述べる)。
たとえば、売買代金の支払期日が3月31日だ、というときに、買主が3月31日を過ぎてもなお、代金を支払わないことがこれにあたります。
反対に、商品を納入すべき日までに納入しない、というのも遅行遅滞の一つです。
いつ遅滞に陥るか
債務者がいつ遅滞に陥るかは、債務の種類によって異なります。ここで、詳説は避けますが、履行遅滞を考えるときは、次の3つの類型に分類して考えるのが一般的です。
確定期限債務
期限が○月○日と確定している債務⇒その日が過ぎれば遅滞となる。
不確定期限債務
契約上履行することは確実ではあるが、期限が特に確定していない債務
⇒その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞となる。
期限の定めのない債務
期限が定められていない債務
⇒履行の請求を受けた時から遅滞となる。
民法412条
1 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
履行遅滞の効果
上記のような履行遅滞が発生した場合、債権者は次のような主張をすることが可能です。債務者は、次のような責任を負います。
【➀遅延賠償】
債権者は、本来の請求に加え、債務者に対して、債務の履行が遅れたことによって債権者に生じた損害の賠償を請求することができます。
【②解除】
また、債権者は、一定の要件のもとに、契約を解除することもできます。
履行遅滞と信用リスク
先方にきちんとした理由がないにもかかわらず、履行遅滞が現に発生した場合、ビジネスの場面では、往々にして、信用リスク大と判断されます。
支払遅滞した場合、債権者側としては速やかに対策を立てることが必要です。
契約を解除するのか、先方に請求を継続するのかの選択をせまられるとともに、債権者としては自己の権利の実現のため、交渉により担保を得る、あるいは保全処分という法的手続をとること等を検討しなければなりません。
履行遅滞に直面した場合には、早期に弁護士にご相談ください。