ビジネス実務法務入門連載、今回のテーマは商人間の売買における買主の目的物の保管・供託義務についてです。

民法に定めのない商人間売買における特別なルールです。約款にて手当をしておかないと買主が思わぬ負担を被ることになります。

解除された契約の目的物の保管・供託義務

商法527条1項は、商人間売買が解除された場合について、買主に商品の保管・供託義務を課しています。

民法に従えば、売買契約が解除した場合、買主は売主に対して商品の返還義務(原状回復義務)を負うだけです。

しかし、商人間売買の場合、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合を除き、買主には、商品の保管または供託の義務が課されるのです。

売主側の費用負担にはなるものの、買主は、売買の目的物を保管し、または供託しなければなりません。

また、商品自体を保管・供託することで、その商品に滅失や損傷の恐れがあるときも、買主は、これを直ちに転売するといったことはできません。

買主は、裁判所の許可を得て、これを競売し、競売における代価を保管・供託することになります。

(買主による目的物の保管及び供託)

商法第527条
1 前条第一項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならない。

2 前項ただし書の許可に係る事件は、同項の売買の目的物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。

3 第一項の規定により買主が売買の目的物を競売に付したときは、遅滞なく、売主に対してその旨の通知を発しなければならない。

4 前三項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。



参照:商人間の売買における買主の検査・通知義務
なお、第1項に「前条」とあるのは、商法526条を指します。上記リンク先にて条文をご確認ください。

商品違いがある場合、過量に受け取った商品がある場合

上記の保管・供託義務は、商人間売買において、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合の買主が受け取った商品や買主が過量に受け取った商品がある場合についても、生じます。

この場合も、買主は受領した商品(過量に受け取っていた場合は、数量超過分の商品)につき、保管・供託(これにより滅失などのおそれがある場合は、裁判所の許可を得た行った競売における競売代価の保管・供託)をする必要があります。

商法第528条
前条の規定は、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における当該超過した部分の数量の物品について準用する。


 

保管義務・供託義務を免れるために

上記のような保管義務・供託義務は、買主にとって大きな負担です。

そこで、商人間の売買契約においては、買主がこの義務を避けるために、当事者間で特約が付されることがしばしばあります。

たとえば、契約が解除された場合において、売主が売主の負担で商品を引き取り義務を負う、などと定めたり、一定期間経過後に買主が商品を転売できる、などの特約を付す例が見られます。