ビジネス実務法務入門、今回のテーマは売買契約と手付金です。
不動産取引に多くの例がみられるように、売買契約を締結に際して、当事者間で手付に関する合意がなされることがあります。
これを手付合意といい、手付合意に基づいて交付された金銭を手付又は手付金といいます。
では、売買契約における手付にはどのような意味があるのでしょうか。
3つの種類の手付
手付には、法律上、複数の種類があります。その代表的なものは、次の3つです
一つは、証約手付、二つ目は違約手付、3つめは解約手付です。
また、実際の手付についてみると、その手付の意味合いは、上記のうちどれか一つに限られる、というものでもありません。
ある手付が証約手付と解約手付という二つの性質を有する場合もあります。
以上を前提に、以下、各種手付の意味を見ていきます。
証約手付
証約手付というのは、売買契約の成立を証するという意味での手付です。
買主から支払われた手付金に売買契約の成立を証するための証拠としての機能を持たせるものです。
違約手付
違約手付というのは、買主が契約違反をした場合において、手付金が損害賠償金として機能する手付のことをいいます。
大ざっぱに言えば、買主が契約違反をした場合に、売主が当該手付金を没収できる、という性質を有する手付です。
解約手付
解約手付というのは、買主が手付金を放棄し、または売主が手付金の倍額を買主に支払うことによって、双方の当事者が売買契約を解約できる、という機能を有する手付のことです。
買主による手付金の放棄を俗に「手付損」「手付流し」といいます。反対に、売主による手付金の倍額の支払いを「手付倍返し」といいます。
ただし、手付が解約手付に該当する場合でも、解約手付の効力によって売買契約を解約できるのは、相手方当事者が履行に着手する前までに限られます(民法557条)。
したがって、たとえば、既に売主が買主の住所に充てて商品を発送していた場合、その後において、買主は手付の放棄により契約を解約することはできません。
買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
手付の性質の認定
上記のように、手付には複数の種類がありますが、ある売買契約において交付された手付にどのような機能もたせるかは、当事者の合意によって定めることができます。
ある手付につき、単に証約手付にすぎないとするのか、あるいは解約手付としての機能・性質(種類)を持たせるのか、といった点を、売買の当事者は契約で定めることができるわけです。
では、反対に、当事者間において手付が交付されたものの、手付の機能、性質(種類)が明確に合意されていなかったという場合、当該手付は法律上どのような意味をもつのでしょうか。
この点につき、判例は、当該手付を「解約手付」と推定する、としています。
そのため、この場合には、相手が履行に着手するまで、買主は手付を放棄することにより、売主は手付倍返しによって、売買契約を解約することができます。
申込金(申込証拠金)と内入金
なお、売買契約に際しては手付の他にも、申込金(申込証拠金)や内入金という金銭が支払われることがあります。では、申込金(申込証拠金)や内入金と手付には、どのような違いがあるのでしょうか。
申込金(申込証拠金)について
申込金(申込証拠金)というのは、契約を申し込みに要する金銭、又は契約を申し込んだことを証する金銭です。往々にして契約締結の優先権を確保する、という意味合いを有します。
売買契約の成立を前提とする手付とは異なるもので、契約不成立の場合(「申込」に対する「承諾」がない場合)、当該金銭は返還の対象となります。
内入金について
内入金というのは、契約成立後に代金の一部前払いとして支払われる金銭です。
内入金の支払は、売買代金の一部の支払いと評価されるにすぎず、当該金員の放棄や倍返しによっても、契約は解約されませんし、内入された金員は契約不履行の場合の違約金とも評価されません。