会社の労務に関し、基本的な労働条件や服務規律を定めるのが、いわゆる就業規則です。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成が義務付けられています。また、労働者が10人未満の小規模な会社においても、労務管理の観点から、就業規則が制定されることが少なくありません。
なお、多数の労働者に関する労働条件や職場規律について定めた規則であれば、その名称を問わず、就業規則に該当し得ます。
就業規則の法的効力
就業規則の効力は、大きく、最低基準効と契約規律効という二つに分けることが可能です。
また、契約規律効は、採用時の規律効と就業規則の変更時の規律効とに分けることが可能です。
以下、最低基準効、採用時の契約規律効、変更時の契約規律効の順に説明します。
最低基準効
<最低基準効とは>
就業規則の最低基準効というのは、労使間の労働契約において、就業規則の定める基準に達しない労働条件が無効となる、という効力です。
参照:就業規則の基礎知識
たとえば、労働者全員に適用される就業規則に退職金の支給規定があり、就業規則によれば勤続5年で退職金が付与されることとなっていたとします。
それにもかかわらず、個別労働者Aさんとの関係で、勤続10年でなければ退職金を支給しないと合意しても、当該合意は無効です。
この場合、会社は勤続5年でBさんに退職金を支給しなければなりません。
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
<最低基準効の効力発生条件>
就業規則の最低基準効は、当該事業場の労働条件の基準を定めた規則として実質的に周知された場合に発生します。
この点、労働基準法は、就業規則の作成・変更に関する手続きとして、労基署への届けや労働者の代表等からの意見聴取等を求めていますが、最低基準効の発生条件として、これらの手続は要求されていません。
最低基準効の発生条件として、これらの手続を要求すると、かえって、労基法の求める手続きを行っていない杜撰な会社の労働者につき、就業規則の最低基準効による保護を図ることができなくなるためです。
契約規律効
就業規則には、最低基準効の他に、契約規律効(契約内容規律効)という効力があります。
これは、個別の合意されていない労働条件について、就業規則の内容が労働契約の内容になる、という効力です。
労働契約法は、この契約規律効について、労働者の採用時と変更時とで分けた上で、規定を置いています。
労働契約法7条と10条です。
採用時の契約規律効
採用時の契約規律効というのは、雇用契約に際して、契約内容として明示されていなかった労働条件部分につき、就業規則の内容が契約の内容になるという効力です(労働契約法7条)。
この採用時の契約規律効は契約補充効と言われることもあります。
たとえば、労働契約に際して、休暇や休職、異動、服務規律等に関し、明示されていなかったとしても、当該各事項が就業規則に定められていれば、就業規則に記載された内容が労働条件となりえます。
就業規則が契約内容を補充するという機能を有するのです。
この採用時の契約補充効は、その内容が合理的であり、かつ、労働者に周知されていることによって生じます。
ここでいう周知と言えるためには実質的に周知していると言えることが必要ですが、個別労働者がその内容を知っているか否か迄は問われません。
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
※同法12条については上記参照
変更時の契約規律効
変更時の契約規律効というのは、就業規則を変更した結果、各労働者の個別の合意が無くても、変更した就業規則の内容が労働契約の内容になる、という効力をいいます(労働契約法10条)。
変更時の契約規律効は、個別合意なく、就業規則が労働契約の内容を決するという点では採用時の契約規律効と同様です。
ただ、この変更時の契約規律効により、使用者は、個別の労働者との同意がなくても、労働条件を労働者にとって不利益に変更し得ることとなります。
そのため、この就業規則の変更をめぐっては労使間のトラブルが往々にして発生します。
参照:就業規則の変更について
変更時の契約規律効が発生するための条件は、就業規則の変更が合理的であり、かつその内容が実質的に周知されたことが必要です。
就業規則の変更の合理性は、就業規則の変更の必要性や労働者が被る不利益の程度等を総合考慮して決せられます(労働契約法10条)。
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
まとめ
以上のように、就業規則には、労使間の契約の最低ラインを定める最低基準効、労使間の契約内容を規律する契約規律効という極めて重要な法的効力が付与されています。
労使条件を巡る紛争の解決にはこの就業規則の解釈や有効性を判断するための専門的な知見が不可欠です。
労働条件を巡るトラブルに合われた場合には、一度弁護士にご相談ください。