就業規則の変更労使関係を規律する重要なルールの一つが就業規則です。

就業規則というのは、ある事業場において、多数の労働者に関わる労働条件や職場規律を定めるルールです。その作成者は、使用者(経営者)です。

この就業規則には、賃金や労働時間等、労働条件に関わるほとんどすべての事項を定めることができ、多くの企業が、就業規則にて、子細にルールを定めています。

そのため、就業規則は、現実にも多数の企業において、労使関係の権利義務関係を規律する極めて重要な役割を担っています。

今回は、この就業規則の変更について説明します。

就業規則の変更が必要となる場面

就業規則は、一度作って終わりという訳ではありません。随時、見直しや変更が必要になります。まず、就業規則の変更が必要となる典型的な場面を紹介します。

法改正対応のための変更

就業規則の変更が必要となる場面の一つは、労働に関する法律が改正等された場合です。

労働関係を巡る法律は、近年、目まぐるしく改変されています。そして、労働者の保護を図るために規制が強化されたり、経営者・使用者側の経済活動のために規制が緩和されたりと、法改正は、労使の有り方に強く影響を及ぼします。

法改正により新たな法律上のルールが出来ているにも関わらず、就業規則をそのままにしておくのは、就業規則の機能不全を引き起こし、ひいては法律違反の状態も招きかねせん。

労働条件に関わる法改正の内容によっては、現状のままの就業規則が維持できず、その変更の手続をとる必要が生じます。

会社の実情の変化等に応じた変更

また企業の活動内容や企業の実情は随時変化します。

従業員数の拡大に伴う組織構造の変化や、事業所の業務内容の変化などによって、既存の就業規則が実情に合致しなくなるということは珍しくありません。

また、たとえば新規人事考課制度を採用したり、年俸制を導入したりといった人事・労務管理戦略を新たに採用する場合にも、就業規則の見直しが必要とされます。

加えて、経営不振が続く場合には、経営や雇用維持のため、決して簡単なものではありませんが、就業規則中の賃金規定の見直し・変更が必要とされる場合もあります。

このように、企業活動の変化や、新規人事戦略の採用、企業の実情の変化等に応じて、就業規則の見直し・変更が求められることも少なくありません。
  

助成金の申請

国や地方自治体は、雇用促進・労働条件の改善等の労働政策を推進する方策の一つとして、各種助成金制度を導入しています。

そして、労働政策に関わる助成金の中には、就業規則に一定の定めがあることを条件とするものも少なくありません。

そのため、こうした助成金の交付を受けるために就業規則の変更が必要とされることもあります。

就業規則変更の手続

就業規則変更の手続就業規則を変更する場合の手続やその効力の発生条件については、労働基準法や労働契約法に定めがあります。

なお、内容面に関しては、変更後の就業規則が労基法等の強行法規に違反するものであってはならないことは、当然の前提です。

以下、労働基準法、労働契約法上のルールを確認します。


労働基準法上のルール

まず、労働基準法についてみると、就業規則の変更に関して、同法は後述のように定めて、労働者の過半数を代表する者からの意見聴取等を法定しています。
   
常時10人以上の労働者を使用する使用者が就業規則を変更するには、①就業規則の変更に関して労働者の過半数を代表する者等から意見を聴取し、②当該意見を記した書面を添付して、変更した就業規則を変更届と共に労基署に届け出ることが求められます。

<労働基準法89条>
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
1号 以下略
 <労働基準法90条>
1.使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2.使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

労働契約法上のルール

また、上記手続を満たせば就業規則の変更は無制限に行うことができる、という訳ではありません。

労働契約法上は、変更後の就業規則が有効であるための条件として、変更後の就業規則の周知の他に、当該変更が合理的である事が必要とされています。

<労働契約法第10条>
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、・・・合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

当該就業規則の変更が、労働者の労働条件を不利益に変更するものでなければ、当該変更の合理性が問題視されることはないかもしれません。

しかし、その変更によって賃金が減少する等の不利益を被る労働者がいる場合には、就業規則の変更には、その変更が合理的と言えるか否か、慎重な検討が必要になります。

当該変更が合理的といえるか否かは、ケースバイケースで判断されますが、その判断に際しては、次のような判断要素が斟酌されます。

 <就業規則変更の合理性の有無の考慮要素>
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況(労働者側との交渉状況)
・その他の就業規則の変更に係る事情

労使間で就業規則の変更を巡るトラブルが発生した場合、裁判では、就業規則の変更が合理的と言えるか否かについて、上記の様な各事情が斟酌されますので、その変更に際しては、これらの事情を事前に検討しておくことが重要です。

なお、労基法では、使用者は労働者代表者の意見を聴取することが要求され、協議までは必要とされていません。

しかし、その一方で、労働契約法上は、上記の様に、労働者側との交渉状況も合理性を判断するための一つの要素に挙げられています。

労基法上求められていないからといって、労働者側からの意見を形式的に聴くだけに済ませ、労使間の実質協議・交渉を排除するような使用者側の態度が、就業規則の変更の合理性の有無の判断に際して消極に斟酌されかねないことには注意を払う必要があります。