自己破産というのは、多重債務状態に陥り、継続的な返済が不能になった方が、自ら、その財産・負債を清算する整理手段の一つです。
そして、自己破産をした場合、債務者は、一般的な借金・負債を免れる機会を付与されます。
この「借金負債を免れる」というのを法律用語では免責といいます。
債務者が自己破産をする主要な目的は、多くの場合、この免責を得る点にあります。
免責には裁判所の許可が必要
自己破産をした場合、破産者は、必ず免責を得られるというわけではありません。
免責を得るためには、裁判所の許可が必要です。
そして、破産法は、免責に関し、免責不許可事由を定め、免責を不許可とすべきケースを定めています。
免責不許可事由がある場合、裁量免責という制度の下で、裁判所の許可が得られない限り、免責は認められません。
免責不許可事由
上記の免責不許可事由を定めているのが、破産法252条各号です。
破産法252条1項は、裁判所は,「破産者について,下記各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には,免責許可の決定をする」と定め、免責不許可事由がないことを免責許可の条件としています。
① 破産財団の積極的な価値減少行為
② 不当な債務負担行為
③ 詐害的非義務行為
④ 浪費・賭博・射幸行為による債務負担等
⑤ 詐術による信用取引
⑥ 帳簿、書類等の隠滅等。
⑦ 虚偽の債権者名簿の提出
⑧ 説明義務違反・虚偽説明等
⑨ 不正の手段による破産管財人等の職務妨害
⑩ 過去7年以内の免責
⑪ 破産法上の義務違反行為
免責不許可事由としての浪費
上記の内、免責審理に関し、問題となることの多いものの一つが浪費による過大な債務負担等です(上記④)。
浪費の典型例
社会一般的に言えば、浪費の典型例として挙げられることの多いのは、高級車の購入や高級ブランド品の購入・高級店での外食やキャバクラ・風俗等への支出です。
また最近では、インターネット・スマホゲームの課金や過度なエステサービスの利用や・美容品の購入等が浪費として挙げられることも少なくありません・
破産に至る過程で、これらの行為が行われていた場合には要注意です。免責不許可事由ありとされる可能性が生じます。
破産法上の定め
<因果関係が必要>
ただ、上記に挙げるような高級車の購入などを過去に行ったことがあるというだけでは、破産法上、免責不許可事由有り、とはなりません。
破産法は、単に、浪費をしたことを免責不許可事由としているのではなく、「浪費・・・によって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと」を免責不許可事由と定めています。
したがって、免責不許可事由有り、と判断するためには、浪費によって、財産が大きく減少したり、大きな借金・負債が生じたと言える因果関係が必要です。
<社会的許容性を逸脱する支出であること>
また、浪費というのは、単に不要・不急の支出を意味するのではなく、社会的に許されない不要・不急の支出と理解されています。
ここでのポイントは、その支出が社会的に許されないような支出か否か、という点です。
過去に、高級ブランド品や高級車を買ったことがあったような場合でも、当時の経済状況等を勘案し、社会的に見て許容される支出であれば、浪費には該当しないことになります。
浪費に該当するか否かは、その支出の必要性・通常性ないし相応性に照らして、社会的に許容されるか否かという観点から判断されます。すなわち、浪費は、評価を伴う概念です。
たとえば、ミリオンヒットを飛ばし続け、年間数億も稼いでいた有名音楽プロデューサーがいたとします。
このプロデューサーが、プロデュース全盛期で年何億も稼いでいたころに、高級車を購入したり、遊興に興じたりしており、しかも、その当時、破産の契機すらなかった(借金が無かった)とすれば、その支出が社会的に許容されないとはいえません。
このプロデューサーが、全盛期を過ぎ、その20年後に、別の事業の失敗により破産状態に陥ったという場合において、プロデュース全盛期のころの高級車などの購入をもって浪費と評価されることは無いと思われます。
これは極端な例ですが、ここでは、浪費に当たるか否かが、その支出当時の財産状況等を勘案して、破産者ごとに相対的に判断されるということが重要です(諸説あるも、破産者ごとに相対的に判断するのが通説的理解であると思料されます)。
裁量免責について
なお、最後に、裁量免責という制度について補足しておきます。
浪費による過大な債務負担等があって、免責不許可事由がある場合、破産法252条1項の条件上は、免責許可が得られません。
もっとも、この場合に、破産者が絶対に免責許可を得られないかというと、そうではなく、破産法は、免責不許可事由がある場合につき破産者を救済する規定を設けています。
その規定が破産法252条第2項です。
破産法252条第2項は、免責不許可事由がある場合でも、裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができると定め、免責の余地を残しています。
これを裁量免責と言います。
免責不許可事由として、浪費による過度な債務負担等があった場合でも、この裁量免責により免責を受けられる可能性があります。
ケースバイケースの判断にはなりますが、免責不許可事由としての浪費に該当する事実があるような場合でも、借金・負債に悩まされている方にとって、裁量免責を得るべく自己破産の申立を選択することが適切な場合も決して少なくはありません。