請負人の瑕疵担保責任における主観的瑕疵建物の新築工事やリフォーム工事に関する紛争の一つに、「瑕疵担保責任」を巡る紛争があります。

読みにくい言葉ですが、「瑕疵」=「かし」と読みます。

瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)というのは、新築やリフォーム工事によって出来上がった完成物に、欠陥がある場合に、請負業者が負うべき損害賠償責任などの法的責任をいいます。

参照:欠陥住宅訴訟について

たとえば、新築工事において、建築工事を委託したところ、当該建物が建築基準法に違反し、構造的な安全性を欠く欠陥を有していた場合等が典型例です。

客観的瑕疵と主観的瑕疵

請負工事における瑕疵は、大きく分けて客観的瑕疵と主観的瑕疵の二つあると言われます。

客観的瑕疵は、一般には、その建物が通常有すべき品質・性能を有していないことをいいます。

上記に挙げたような建築基準法違反の瑕疵等は、客観的瑕疵に分類されます。

他方、主観的瑕疵というのは、当事者が、特に契約で定めた合意内容に違反する欠陥をいいます。

主観的瑕疵の一例としては、たとえば、ビルの屋上の仕様をAという工法で仕上げることを当事者間で合意したにも関わらず、当該合意に反して、Bという工法で仕上げた場合をいいます。

この場合、Bという工法を採ること自体、建築基準法等に違反するといえなくても、あるいはB工法による仕様に何ら問題が無くても、施工業者が合意に反して、Bという工法を選択し施工したことによって、建物に瑕疵があるとの評価を受けます。

主観的瑕疵に関する著名な最高裁判所判決

主観的瑕疵に関する最高裁判所判決上記の主観的瑕疵については、有名な最高裁判決があります。

以下、事案概要、原審の判断を、最高裁の内容を順に見ていきます。

実務的にも、主観的瑕疵については、この最高裁判決の趣旨に沿って判断されます。

事案概要

1995年に発生した阪神・淡路大震災後、神戸で新たに、学生向けのマンション建設工事が行われることとなった。

施主たる注文者は、阪神・淡路大震災に代表されるような大規模地震に備え、安全性を重視て、マンションの主柱を標準的な太さのものより、さらに太いものを使用することを求めた。

そこで、施主と請負人との間の請負契約において、主柱を300㎜×300㎜の鉄骨を使用することが合意された。

ところが、請負人は、施主に無断で、250㎜×250㎜の鉄骨を主柱として、建物を完成された。

これに対して、施主が、当該250㎜×250㎜の鉄骨を主柱としたマンションには瑕疵であるとして、請負人に損害賠償を請求した。

原審の判断

上記事案において、原審(大阪高等裁判所)は、250㎜×250㎜の柱を使った点につき、契約違反を認定しつつ、安全性には影響がないとして、瑕疵に該当しないと判断しました。

最高裁の判決

これに対して、平成15年10月10日最高裁判決は、次のように述べて、原審の判決を破棄しました。

前記事実関係によれば、本件請負契約においては、上告人及び被上告人間で、本件建物の耐震性を高め、耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、南棟の主柱につき断面の寸法三〇〇mm×三〇〇mmの鉄骨を使用することが、特に約定され、これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。

そうすると、この約定に違反して、同二五〇mm×二五〇mmの鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には、瑕疵があるものというべきである。

若干のコメント

この判決は、事例判決であるものの、主観的瑕疵も請負人の瑕疵担保責任に主観的瑕疵が含まれることを前提としたもので、実務でも、度々参照にされる判決です。弁護士間では「鉄骨事件」などと呼ぶこともあります。

そもそも、請負人の瑕疵担保責任は、債務不履行責任(契約違反責任)の特則と位置づけられています。

そのため、実は、契約違反・合意内容違反による欠陥・不完全性は、瑕疵そのものとも評価し得るところです(理屈的な整理としては、客観的瑕疵の問題すらも当事者の合意の問題として理解・整理され得ます)。

通説的理解においても、目的物が、当事者間において、あらかじめ定められた性質を欠くなど不完全な点を有する場合には瑕疵というべき、と理解されていたところです。

上記判決は、この通説的理解に沿う当然の判決と評価されます。

契約で特に定めた合意内容に違反する目的物が出来上がったのに、常識的に考えても、請負人が責任を負わないというのは余りに不当な結論というべきです。