企業が新規に労働者を雇用する場合、雇用契約において、試用期間を設けることがあります。
試用期間というのは、一般に、従業員としての適格性を観察・評価するための期間をいいます。
今回は、この試用期間中の本採用の拒否ないし解雇についてのコラムです。
試用期間の合意
試用期間は、従業員の採用に際して、採用後、一定期間、従業員として試用し、従業員としての人物・能力の適格性を評価し、本採用とするか否かを判断するために設けられます。
試用期間が設けられる場合、採用に際して、たとえば、使用者と当該労働者との間で、当該労働者が従業員として不適当と認めるときは、使用者が試用期間中または満了時に当該従業員を解雇できる、等の合意がなされます。
この試用期間の実利は、使用者側にあり、当該労働者の能力等に大きな問題がある場合に、使用者が本採用を拒否する根拠とすべく、試用期間の定めが設けられるのが一般です。
試用期間の長さ
試用期間の制度を設けること自体は、当然に合法です。
労働基準法第21条第4号に、「試の使用期間中の者」との表現が用いられており、試用期間の制度自体、労働基準法でも予定された制度であるといえます。
もっとも、試用期間を定めることができるとしても、その期間の長さを無制限に設定することはできません。
この点、法律の明文上、試用期間の長さを制限するものはありません。
しかし、だからといってこれを無制限に認めてしまうと、労働者の地位が著しく不安定になり労働者の保護を図ろうとした労働基準法の理念にも反します。
試用期間の長さは、使用者側の業種・業態、採用される労働者の業務・新卒、中途採用の別等、種々の事情に照らし、合理的な範囲と言える長さである必要があります。
実際には、多くの会社で、試用期間につき、3か月~6か月という期間設定がされており、これが一つの目安となります。
なお、裁判例の中には、見習社員としての試用期間(6か月から1年3か月)経過後において、試用社員としての試用期間(6か月から1年)が設定されていた事案において、試用社員としての試用期間を公序良俗(民法90条)に反するとしたものがあります。
試用期間中の本採用拒否(解雇)
試用期間に関連して発生しやすい法律問題の一つが本採用拒否です。
そこで、以下、試用期間中の本採用拒否(解雇)に関する注意点を説明します。
ただ、その説明の前提として、労働者の解雇に関する一般的な規定に関する理解が必要となりますので、まずは解雇に関する労働契約法16条を紹介します。
労働者の解雇に関する規定
労働契約法第16条は、労働者の解雇について、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできない、としています。
この規定は、いわゆる解雇権乱用法理を明文化した規定と言われています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
そして、実務において、この解雇の要件を充足するか否かは厳格に判断されており、労働者保護の理念から、裁判所は、容易に解雇の有効性を認めない傾向にあります。
本採用拒否も自由にはできない
一方で、試用期間中の労働者の地位は、正規従業員(試用期間中でない従業員)ほど、安定したものではありません。
労使間の契約内容に左右されるところではありますが、試用期間中の労働契約は、多くのケースで、解約権が留保された雇用契約と解されています。
そのため、正規従業員(試用期間中でない従業員)に比して、試用期間中の労働者の地位は、使用者側に解約権(解雇権)が留保されている点で、不安定です。
もっとも、労働者保護の理念は試用期間中の従業員にも及びます。
解約権が留保されているからと言って、無制限に使用者による解約権行使が許されるわけではなく、判例上、一定の制約が課されています。
三菱樹脂事件判決
上記の点に関して著名な最高裁判決である三菱樹脂事件は、次のように述べています。
「留保解約権に基づく解雇は通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべきであるが、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される」
上記最高裁は、上記の様に判示した上で、さらに次の趣旨の判示をしています。
「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または使用中の勤務状態等により、当初知ることが出来ず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権の留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」(同判決より)に解約権行使が認められる。
試用期間中の本採用拒否(解雇)の有効性の判断基準について
最高裁が、「留保解約権に基づく解雇は通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべきである」と述べていることに象徴されるように、通常の解雇の場合よりも、解約権留保は緩やかに認められる傾向にあります。
しかし、だからといって、解約権行使が必ずしも容易に行使できる、とまでは解されません。
客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上の相当性を有する場合にのみ、本採用拒否(解雇)が認められる、という点、は使用者においても、採用された労働者においても、きちんと把握しておく必要があります。
試用期間中であっても、軽軽な解雇はできず、使用者に慎重な判断が求められるのです。