分譲マンションに関する権利義務関係等を規定する区分所有法は、マンションの管理費につき、管理組合が管理費を回収するための便宜を図っています。

その一つは、マンションの管理費を先取特権とするものです。

管理費が先取特権とされることで、管理組合は、一般の債権者よりも、マンションの価値から管理費を優先的に回収しえます。

もう一つは、管理費の支払義務をマンションの特定承継人に負わせる、というものです。

この特定承継人の仕組みは、私法の仕組みの中でも、かなり特異な仕組みです。今回は、この特定承継人の義務について説明します。

特定承継人

区分所有法8条は、特定承継人の義務に関し、次のように規定しています。

<第8条> 
前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

上記法8条にいう「前条第1項に規定する債権」の典型例が管理費や修繕積立金ですから、第8条によれば、管理費は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対して請求できるということになります。

ここで、同条にいう特定承継人とは、前所有者から、個別に、マンションの専有部分を承継したものをいいます。「個別に」という限定の趣旨は、相続などにより、前所有者の財産を包括的に承継する者をのぞく趣旨です。

前所有者からマンションの専有部分を購入した者が特定承継人の典型例ですが、それ以外にも、当該マンションの贈与を受けた者なども、個別にマンションの所有権を承継していますので、特定承継人に該当します。

そのため、たとえば、100万円分の滞納管理費が存するマンションを購入した者やその贈与を受けた者は、管理組合に対して100万円分の管理費を支払う義務を負います。

特定承継人に責任を承継させる実質的な理由

法は、なぜ特定承継人に、前者の滞納管理費の支払い義務を負担させるのでしょうか。

一概に説明できるものではありませんが、特定承継人に責任を承継させる実質的理由としては、一般に、次のような理由が挙げられます。・

・管理組合の管理費の回収の必要性を保護する必要性が高い。

・管理組合は管理費を投下してきてマンションの価値を維持しているところ、特定承継人に滞納管理費を負担させないと、特定承継人は、滞納管理費分について負担のないまま、管理費投下による利益を享受することになる。

特定承継人の範囲

特定承継人の範囲について、もう少し見ておきましょう。

承継の理由・主観面は影響するか

まず、特定承継人(マンションを購入した人等)の主観面が、特定承継人に当たるか否かの判断基準になるか、という問題です。

説明の為、極端な例を挙げますが、価値200万円のマンションに250万円の管理費滞納があるとします。

この滞納管理費額を知らずにマンションを200万円で購入してしまったという場合に、購入者は、特定承継人として、管理組合に滞納管理費250万円の支払義務を負うのでしょうか(ここでは、契約の取り消しや解除はされなかったものとする)。

答えは、購入者は、「滞納管理費の支払義務を負う。」です。

上記のとおり、特定承継人とは、前所有者から、個別に、マンションの専有部分を承継したものをいいます。ここでは主観面は問われません。

上記滞納管理費承継の実質的根拠に照らしてみても、滞納管理費があると知らなかったことは、滞納管理費の承継を否定する理由になりません。

したがって、滞納管理費があると知らずに不動産を購入した者も、特定承継人として前所有者の滞納管理費を支払う義務を負います。

転々譲渡された場合の中間特定承継人

ではさらに、滞納管理費のあるマンションが転々譲渡された場合はどうでしょうか。

管理費が滞納されているマンションを所有していたAが、Bにこれを売却し、BがさらにこれをCに売却したという場合を考えてみます。

まず、Cが滞納管理費を承継する点につき、争いはありません。問題は、マンションをCに譲渡したことにより、Bが、管理費支払義務を免れるか否かです。

この点については、諸見解あるところですが、Bは管理費支払義務を免れないとの見解が有力です。

この見解は、法8条が、管理組合側の管理費回収の必要性に重きを置いて立法化された点を重視する見解といえます

この見解による場合、AやCだけでなく、Bも滞納管理費の支払義務を負います。

求償問題

次に、滞納者(前所有者)と、マンションを管理費滞納者から購入した者(新所有者)との関係を説明します。

不真正連帯債務

上記の通り、マンションを管理費滞納者から購入した者(新所有者)は、特定承継人として滞納者(前所有者)とともに、管理組合に対して、滞納者が負っていた管理費の支払い義務を負います。

この場合において、前所有者と新所有者(特定承継人)の関係は、法律上「不真正連帯債務」という関係に立つと言われています。

詳細な説明は省略しますが、両者が不真正連帯債務関係になると、管理費を滞納していた前所有者も、あらたに取得した新所有者いずれも、滞納管理費全額を管理組合に支払わなければなりません。

たとえば、滞納管理費が100万円だった場合、管理組合は、前所有者に100万円を請求しても良いし、新所有者に100万円を請求できます。両者とも100万円を支払う義務を負うわけです。

もっとも、当然のことながら、二重取りはできません。

たとえば、前所有者が100万円を払った場合、新所有者の管理組合に対する100万円の支払義務は消滅します。

反対に、新所有者が100万円を管理組合に支払った場合、前所有者の管理組合に対する100万円の支払い義務は消滅します。

特定承継人が求償できるか

特定承継人が前所有者の滞納管理費全額を支払った場合、特定承継人は、前所有者に対して、求償できるか、が次の問題です。

新所有者である私が払ったのは、本来あなたが払うべきだった滞納管理費なのだから、支払った滞納管理費分を私に支払え、といえるか否かがここでの問題です。

この問題の答えは、前所有者と新所有者間の契約内容次第で左右されます。

前所有者と新所有者との間で、前所有者が管理費を負担する旨の合意があれば、前所有者が求償を受ける地位に立つのは当然ですし、その逆もしかりです。

前所有者と新所有者との間で、明確な合意がない場合には、負担割合合意の有無につき、売買代金の金額(売買代金からの滞納管理費分の価値控除の有無)やその他諸般の事情を考慮して、契約内容を探索していくことになります。

中間特定承継人の求償権

上記各問題の組み合わせ的な問題になりますが、最後に中間特定承継人の求償権についても考えてみます。文献が確認できたわけではないので、ここからはあくまで私見と捉えていただければ幸いです。

中間特定承継人と新所有者間の求償

ここで検討するのは、中間特定承継人の責任に関する上記説明にあるように、ABCとマンションが転々譲渡された場合に、中間特定承継人の責任を認める立場に立った上で、Bがこれを現に支払った場合に、BがCに求償できるか、という問題についてです。

この点、Bが常にCに求償できないと考えるのは、Aの無資力の負担をBが一身に負う形となり公平性に欠くので、この結論はとれないでしょう。

ただ、その一方で、Cへの譲渡の売買代金等の面からみて、Bが滞納管理費の負担を引き受けた(滞納管理費額相当分を不動産の価値から控除せずに売った場合等)、と言える場合にまでBがCに負担を求め得るとするのは、契約時における当事者の意思(特にCの意思)に反します。

反対に、Cが滞納管理費の負担を引き受けた、と言える場合には、Cへの求償を認めるべきです。

内部割合は、契約内容で定め得るものですから、中間特定承継人のケースにおいても、結局、BからCへの求償可否(同様に内部割合も)は、結局、BC間の契約内容をどう理解するか、という問題に帰着すると思われます。

新所有者が求償に応じた場合

次に、新所有者が求償に応じた場合、新所有者と、本来の滞納管理者との関係はさらに問題となります。

ABCの転々譲渡の例で、Bが滞納管理費を管理組合に支払った上で、Cに求償を求め、Cが応じてこれを支払った場合、CがAに求償できるか、という点です。

この場合、AC間に契約関係がないので、AC間の合意による内部分担を観念できません。

ただ、AC間のAB間契約によって、BがAに求償できる立場にあった場合には、BC間の契約の効果として(BC間の契約の合理的解釈として)、BのAに対する求償権のCへの移転を認めるべきように思います。

このように解するのは、AB間契約でAの負担とされていたのであればAに不測の損害があるとはいえませんし、Bの権利を移転させても、求償の満足をすでに得ているBとっても不利益とはいえないからです。

このように解することで、Cに対する求償権の行使によって満足を得たBのAに対するさらなる権利行使を防ぐこともできます。