ネガティブSEO今日は、ネガティブSEOと損害賠償責任についてです。

あまり見慣れないテーマですが、ECコマースやSEOコンサルティング等に携わる方にとっては、関心のあるところではないでしょうか。

私自身、ネガティブSEOを対象とする損害賠償請求の事案を扱ったことはありませんが、民法や民訴手続の一般的知識に従って、検討してみます。

検討してみると、請求自体は認められうるものの、証拠確保の方法や日々のデータ管理の在り方などが課題となることが分かります。

なお、このテーマはこれまでほぼ研究されていないテーマですので、私見が多々混じる事、第三者からは違う見解が出され得ることあらかじめ申し添えます。

この記事自体、簡単な気持ちで書き始めたのですが、気が付けば検討課題がどんどん増えていきました。

ネガティブSEOとは

ここで、ネガティブSEOについて確認しておきます。

もちろん法律上の用語ではありませんし、人それぞれ「ネガティブSEO」の言葉の意味・使い方が異なるかもしれませんので、本記事でいうネガティブSEOについて定義しておきます。

本記事では、「ネガティブSEO」を、第三者が運営するホームページにつき、検索エンジンからの評価を阻害し、その検索順位を意図的に下げようとする行為をいうこととします。

SEOが検索エンジンの最適化を意味するのに対して、ネガティブSEOは、検索エンジンからの評価を下げる行為です。

ネガティブSEOの手段としては、攻撃対象とするホームページに被リンクを大量につけるなど、グーグルのガイドラインに違反する状況を意図的に作出する等の方法があります。

検索順位の価値・重要性

ECサイト運営会社など、ホームページをビジネスの柱とする企業は、インターネットの検索サイト(グーグルやヤフー)の検索順位に強い関心を有しています。

検索順位が高ければ高いほど、ホームページがユーザーの目に留まりやすく、検索順位の上昇は、売り上げの上昇に直結するからです。また、間接的には、検索順位はブランディングにも効果があるとされています。

そのため、企業が、検索順位を上げるべく、SEOコンサルタント等にSEOコンサル・SEOの委託を依頼をすることも少なくありません。

ターゲットとなる商品・サービスの検索順位が上位であること自体が、企業にとっては大きな価値となります。

ネガティブSEOは、この検索順位を下落させ、企業等に大きなダメージを与えうる行為です。

ネガティブSEOと民事責任

ネガティブSEOに対しては、不法行為責任による損害賠償請求によって責任を問うことが考えられます。

民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。



民法709条は、不法行為責任に関する一般的規定です。ここでは、不法行為の成立の一般的要件(条件)を次の3つに分けてみます。

① 故意または過失によって
② 他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し、
③ これによって損害が発生した(損害の発生と因果関係)

以下、便宜上、②の要件を満たすか否かを先に検討し、次に①の要件を満たすか否かを検討します。その後、③の条件について検討します。

②の要件について

まず、②他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したとの要件について検討します。

ここで、検索順位そのものは、②の要素となっている「法律上保護される利益」には該当しないかもしれません。検索順位は、あくまでもグーグル等の等の検索エンジンのアルゴリズムの結果にすぎず、日々変動しうるものだからです。

ただ、だからといって、ネガティブSEOに対しては、②の条件が満たされず、不法行為責任を問えないと言うのは、結論の妥当性に欠きます。

現在では、検索エンジンが社会インフラ化しています。また、ECサイトなどは、その評価を得るために、並々ならぬ企業努力を行っています。また、インターネットの基盤をなす検索エンジンからの評価を第三者に阻害されないという期待は、ホームページを運営する者なら誰しもが抱く期待です。

こうした現状においては、「検索エンジンからの評価を阻害されないという利益」は、法律上保護される利益にあたると考えるべきです。

そうすると、ネガティブSEOは、検索エンジンからの評価を阻害し、検索順位を下げようとする行為ですから、同行為は、②法律上保護される利益を侵害する行為に該当します。

①の条件について

次に、①故意または過失の要件を満たすか否かですが、ネガティブSEOといえるほど大量に被リンクを張る等の行為(加害者にその技術と能力がある)をしておきながら、故意過失がないとされるのは、ほとんど考え難いように思います。

②の要件が満たされるネガティブSEOのケースにおいて、①の条件が満たされないというのは、存在したとしてもごくごく例外的な場面に限られるはずです。

③の条件について

因果関係の立証①及び②の要件が満たされ、これによって、③ホームページ運営者に損害が発生した場合、加害者はこれを賠償する責任を負います。

ネガティブSEOのケースにおいて、加害者に損害賠償請求をするに際して、この損害と因果関係が、立証上の課題の一つです。

なお、上記のように、「検索順位」自体を法律上保護された利益と捉えず、「検索エンジンからの評価を阻害されないという利益」と捉える場合、検索順位の下落は、因果の経過の一つとなります。

【因果経過】
㋐検索エンジンからの評価を阻害された⇒㋑検索順位が下落し、トラフィックが減った⇒㋒売上減等の損害が発生した。

そうすると、おおざっぱな言い方となりますが、因果関係の立証というときは、「㋐から㋑」と「㋑から㋒」の二つの因果経過の立証を要することになります。

㋐から㋑の因果経過の立証

まず、「㋐検索エンジンからの評価を阻害された⇒㋑検索順位が下落し、トラフィックが減った」との因果経過についてです。

立証の対象となる事実

㋐⇒㋑の因果関係の証明は、ネガティブSEOがなされた時期(たとえば大量被リンクが張られた日)を境に検索順位が下落し、トラフィックが減ったことを、どのように立証するかというのが重要なポイントです。

具体的には、ネガティブSEOがなされた「時期」と検索順位の下落「時期」・トラフィックの下落「時期」を明らかにする作業が必要です。

これができれば、他に具体的・現実的な順位下落要素があると相手側から反証(「同時期に検索エンジンのアルゴリズムの変更があった、これによる順位下落だ」などの反論と証明)がなされないかぎり、因果経過の立証が成功する可能性は高いと思います。

被リンクを大量に張ると言う手法について

上記㋐~㋑の立証について、たとえば、被リンクを大量に張るとの典型的手法について、検討してみます。

<㋐ ネガティブSEOがされた時期の立証>
まず、㋐ネガティブSEOがされた時期を立証するには、「Search Console」を利用することができます。

「Search Console」の「サイトへのリンク」の「最新リンクをダウンロードする」で、最新のリンクに関して被リンクを受けた日が一覧できます。

そこで、このデータの保存・管理により、ネガティブSEOがなされた時期についての証拠化を図ります。

<㋑ 検索順位の下落・トラフィックの減少>
次に、㋑検索順位の下落についてですが、やはり、「Search Console」の価値は大きいといえます。

「Search Console」を通じたgoogleからの警告や、クエリの平均順位の変動を調査することで、検索順位の下落とその時期を相当程度立証することができそうです。

ただ、順位の下落について言えば、ネガティブSEOを受ける前の時期において、相当程度の長期間、安定的に一定の順位を確保できていたことも重要な立証命題となります。

また、Search Consoleだけでは平均順位の変動は把握できるものの、日々の具体的な順位変動は不明です。

そのため、ホームページを管理するに際しては、リスクマネージメントという観点から、検索順位を管理・記録化しておくほうが望ましいと言えます(ホームページの戦略立案にも役に立ちますし)。ネットで調べる限り、これを自動化するツールもあるようですね。

なお、トラフィックの減少と時期についていえば、これは、トラフィック解析そのものですので、アナリティクスをはじめとするアクセス解析を利用することになりそうです。

㋑から㋒の因果経過の立証

次に、「㋑検索順位が下落し、トラフィックが減った⇒㋒売上減等の損害の発生」について見ていきます。

検索順位の下落、トラフィック減についての立証は上記の通りですので、ここでは、これにより、売り上げ減などの損害が発生したことをどう証明するか、について検討します。

損害の発生と因果関係の立証が比較的容易といえるケース

たとえば、ECサイト等において、サイトによる売上を管理するシステムなどが導入されていれば、順位下落・トラフィック減による損害発生を立証できそうです。

ネガティブSEOがなされた時期と売上減の時期から、サイトによる売上が減少していることが立証できれば、具体的な反証が無い限り、立証が成功する可能性は高いと言えます。

同様のことは、アフィリエイトサイトでも言えそうです。アフィリエイトサービスプロバイダーのレポート等により、立証に必要な資料取集ができそうです。

損害の発生と因果関係の立証が難しそうなケース

問題は、リアル店舗とウェブによる売り上げが区分されていない場合や、ホームページがリアル店舗への集客ツールでしかない場合です。

こうした事業の場合、ホームページによる売り上げの管理や集客管理(同時に、その集客による売上の管理)の記録化がされていなければ、立証に難を伴います。

リアル事業とウェブ事業がある場合、事業全体の売上減などを決算書などで証明する程度では、損害と因果関係の立証という観点から言うと、極めて不安です。それだけではネガティブSEOによる損害は立証できないといって差し支えないでしょう。

ホームページが集客のためのツールでしかない(売り上げはリアル店舗で上がる)場合も同様です。

そうすると、ホームページやウェブサイトによる売り上げや集客が事業の柱となっている場合には、経営分析の観点からも、リスクマネージメントの観点からも、その記録化・データ化を図っておくことが望ましいでしょう。

ホームページやウェブサイトに起因する売上・収益の記録化を施行しておく必要があります。

ネガティブSEOと加害者の特定

不法行為責任の追及に関して、不法行為責任の要件に沿って検討してきました。

結論

上記の通り、乗り越えなければならない条件や立証のハードルはあるものの、ネガティブSEOに対して、不法行為責任に基づく損害賠償請求請求を理屈づけることは可能です。

また、実際に賠償を認めてもらうための証拠管理(日々のデータ・記録の取得・管理)についても既述のとおりです。さらに検討を重ねればよりよい証拠やデータもでてくるでしょう。

なお、紙面が長くなったので詳細な検討は避けますが、ネガティブSEOを受けているのを認識しながら、リンク否認等の対処をしなかったという被害者側の対応については過失相殺という形で処理されると思います。

加害者の特定

最後に、民事責任の追及に関しては、実はもう一つ、重大なハードルが想定されます。それは、加害者の特定です。

誰がそのネガティブSEOを仕掛けているのか、その特定ができるか否かが責任追及できるか否かの大事なポイントになりそうです。

加害者をどう特定するか、これは、ケースごとに考えることになりますが、ここをクリアできなければ、請求も何もないので、ここが勝負分かれ目となり得ます。

加害者の特定には、SEOやインターネット技術に詳しい専門家の支援も必要かもしれません。

なお、態様にもよりますが、ネガティブSEOは、偽計業務妨害罪という犯罪となる可能性が相応に高いと言うべきです。

また、ネガティブSEOの手法如何では、その他の罪に問いうることもあり得ます。

警察等の捜査機関に現実的な対応をしてもらうのは、かなりというか非常に難儀しますが、加害者が分からない場合に、捜査機関に対する告訴からスタートして、捜査を求める、というのも一つの選択肢でしょう。