ビジネス実務法務入門連載 今日のテーマは、契約とは何か、という点です。
企業間の取引・企業と消費者との取引、いずれも「契約」であり、「契約」はビジネスで利益を得るための最も基本的な手段です。
契約とは
契約の定義は、「当事者間の相対立する意思表示が合致することにより成立する法律行為」です。
さて、いきなりこのように言われても、「契約」のイメージはつかみにくいですよね。でも、難しいことを言っているわけではないんです。意思表示の定義を二つの要素に分解してみます。
① 当事者間の相対立する意思表示が合致すること
② これによって成立する法律行為
この二つをこれから見ていきます。
① 当事者間の相対立する意思表示が合致すること
最も典型的な契約の一つは、売買契約です。
私がパン屋で200円のパンを買う場合を想定すると、ここには、パンを買いたいという人とパンを売りたいという相対立する二人の当事者がいますね。
このうち、パンを200円で買いたい、というのが「買主の意思表示」です。また、パンを200円で売りたいというのが「売主の意思表示」です。
ここでは、パンを200円で買いたい買主・パンを売りたい売主という二人の当事者間の相対立する意思表示(買いたい・売りたい)が合致しています。
これで、契約の定義にあった二つの要素のうち、上記①の要素は満たされます。
なお、ここで、「意思表示」という語について少し補足しておくと、民法が単なる「意思の合致」ではなく「意思表示の合致」という語を用いているのは、内心において意思が合致しただけではなく、相手方において意思を認識できるように、意思が外部に「表示」されたといえることが、取引において重要な要素となるからです。
② これによって成立する法律行為
上記のように、私とパン屋との間で、パンの売買について意思表示が合致すると、どういった効果が生じるでしょうか。
まず、一つには、パンの所有権がパン屋から私に移ります。私にパンの所有権が移るのですから、パン屋は私にパンを渡さなければなりません。
一方で、私は200円で買うと言っているのですから、私は200円をパン屋に支払わなければなりません。
このように、買いたい・売りたいという意思表示が合致することで、パン屋は私にパンを渡す義務を負いますし、私は代金を支払う義務を負います。
逆の観点からいえば、私は、パン屋にパンを引き渡せという権利を取得し、パン屋は私に代金を支払えという権利を取得します。
ここでは、意思表示の合致によって、パンの引渡請求権と代金支払請求権が生じています。
このパンの売買のように、権利義務の発生・変更・消滅(法律効果)を生じさせる行為を法律行為といいます。
契約の意味
上記の売買契約の例を、契約に定義づけて、もう一度確認します。上記例では、
①パンを売りたい・買いたいという当事者間の相対立する意思表示が合致することによって、
②パンの所有権の移転・パンの引渡請求権の発生・パンの売買代金支払請求権の発生という法律効果が生じています。
契約の概念について、少しイメージがついてきたでしょうか。
もちろん、こうした契約は売買だけに限られません。日常生活・ビジネスにおいては、たとえば、賃貸借契約(借りたい・貸したい)など他の契約も多々利用されています。
いずれの契約においても、そこには当事者間の意思の合致と、これによる権利義務の発生・変更・消滅(法律効果)が予定されています。
契約上の義務の法的強制
契約によって生じた法律効果の変動は、例外的な場面を除き、裁判等の手段を通じて、法的に実現すること、強制することが可能です。
たとえば、有効に成立した不動産売買等の例で、買主が売買代金を支払わなかった場合、売主は、裁判等を通じて売買代金の支払いを請求することができます。
また、当該裁判で、買主に売買代金を支払えという内容の判決が出され、これが確定すれば、売主は、法律上、強制執行まですることが可能です。
企業や消費者が安心して契約ができるのは、背景に、こうした国家による強制力・強制手段があるからこそです。
契約と約束の違い
最後に、契約と約束の違いについて確認しておきましょう。
上記のように契約の要素は、①「当事者間の相対立する意思表示が合致すること」、②「これにより成立する法律行為」の二つの要素からなります。そして、単に「約束」という場合、この二つの要素はいずれも欠けています。
私が友達と1時に駅で待ち合わせる、という約束をしたとき、1時に集合するという意思の合致はあるものの、そこには、法律関係の変動を予定する意思表示もなければ、この約束によって生じる法的効果もありません。
また、同様に、裁判所などの国家権力が単なる「約束」の履行を強制することもできません。
約束は、法的効果の変動を予定していない・伴わない点で、契約と大きく異なるわけです。