今回は、弁護活動を受ける本人、あるいは民事で代理される本人ではない家族の一人が、本人のために依頼をすることができるか、という点について解説をします。

以下、刑事事件と民事事件にわけて。

刑事事件について

まず刑事事件についてです。

本人が逮捕・勾留されているケース

たとえば、家族の一人が逮捕・勾留されたケースを想定します。

たとえば、夫が交通事故を起こし、被害者に重傷を負わせてしまい、逮捕・勾留されたというケースを想定します。

この場面では、私選弁護人が選任されていない限り、夫が勾留された時点で国選弁護人が選任されます。

この場合に、配偶者である妻が、国選弁護人ではなく、私選弁護を弁護士に依頼できるかどうか。

結論:依頼可能です。

結論において、可能です。

ただ、弁護士として依頼を受ける場合、本人の意思確認が必要になります。

この場合、弊所における手続の流れは概略次のとおりとなります。

1 法律相談(配偶者と弁護士との相談)

2 配偶者から依頼の申出

3 申し出を受けた弁護士が、本人の接見して、その意思を確認

4 本人の依頼意思が確認できた場合、弁護士と配偶者との間で委任契約

5 弁護活動開始

上記の過程3において、弁護士が勾留されている本人に意思を確認した結果として、本人に私選弁護を依頼する意思がなかった場合、私選での受任はできません。

民事事件について

次に民事事件について。

理屈としては可能

これも、理屈としては可能です。たとえば、交通事故のケースで、夫が、妻のために弁護士を依頼するということもできます。

この場合、手続は次のとおりとなります。

1 夫と法律相談

2 弁護士が本人(ここでは妻)の意思を確認

3 本人の確認ができた場合に、弁護士が夫と契約。
⇓ 
4 本人の委任状取得、代理活動開始。

上記のような流れで、弁護士が、本人ではなく、その家族から依頼を受けて仕事をするということは、理屈上は可能です。

ただ、民事ではあまりしない。

上記のように、民事事件に関して、本人ではない家族の一人から依頼を受けて、実際に動き始めるというのは理屈としては可能です。

ただ、あまりやりません。

上記ケースだと、弁護士との間で弁護士費用負担義務を負うのは、契約した夫ということになります。着手金を支払う義務があるのも夫です。

他方で、弁護士は、本人である妻のために仕事をするわけですが、その仕事の開始に際して、本人確認は必須です。

また、仕事も本人と打ち合わせをしながら進めることになります。

加えて、費用の負担という面でも、妻のために夫が仕事を依頼してあげたい、というケースにおいては通常、家計の総体は一つとみることができます。弁護士に依頼するという結果は、弁護士と妻との間で契約を締結し、夫婦の家計から支払う、という形でも得られます。

したがって、上記のケースでは、妻と弁護士とで合意するというほうがよっぽど筋が良いです。そのため、本人ではない家族の一人から依頼を受けて、実際に代理人として動き始めるということはあまりしません。

本人が自由に動きがたい刑事事件との相違点の一つです。

本人が未成年者の場合

上記の例外として、本人が未成年者の場合が挙げられます。

この場合については、本人が弁護士と単独で契約する能力が法律上制限されています。

そのため、弁護士は、本人のために仕事をする場合でも親権者と契約を締結するのが通常です。

たとえば、未成年者が交通事故被害に遭って、その賠償を求めるといった場合、弁護士は親権者との間で委任契約を締結して仕事を開始します。

この場合は、委任状も、親権者に記載してもらうことになります。