たまに、質問いただく事項の一つに、弁護士は身内の弁護ができるのか、という問いがあります。

普段あまり考えることの無い問いですが、たまにご質問いただきますので、徒然に。

回答=できる。

これ、次の3つの事件について、回答を述べていきます。

・民事事件について
・家事事件について
・刑事事件について

先に結論を述べておくと、弁護士は民事事件・家事事件・刑事事件のいずれについても身内の弁護を出来ます。ただ、実際に弁護・代理をするかどうかは別問題です。

民事事件について

民事事件というのは、平たく言えば、個人の財産に関する紛争です。お金を払え、とか貸した車を返せ、などです。

この民事事件、弁護士は依頼を受けて本人を代理して活動をすることになります。

たとえば、妻が交通事故にあった、といった場合に、妻に成り代わって弁護士として相手方と交渉したり、訴訟追行をしたりできます。

家族・身内のために民事事件の代理人となってはいけないというルールは有りません。

家事事件について

家事事件はどうでしょうか。これも民事事件と同じです。たとえば、相続手続等に関して、弁護士として妻を代理して交渉をしたり、調停手続を追行したりすることが可能です。

また、たとえば、あくまで例としてですが、自分の子どもが配偶者と離婚したいといったときに、自分の子どもの代理人となることもできます。

他方で、弁護士である自分が妻と別れるというときに、妻側の代理人はできません。これは、事件の相手方の代理人となることと同義であり、就任不可です。

刑事事件について

では刑事事件はどうでしょうか。

たとえば、上記交通事故のケースで、妻が交通事故を犯してしまい、逮捕・勾留され、刑事裁判にまで発展したとします。

こうしたケースで、逮捕・勾留段階の妻の弁護・刑事裁判段階での妻の弁護を弁護士ができるでしょうか。

裁判官の場合、たとえば、被告人が親族であるような場合、裁判に関わってはならないというルールがあります。裁判官は公平・中立の立場で事案を扱わなければならないからです。

他方で、弁護士は被告人のために仕事をします。したがって、被告人がたとえば妻であって妻のために仕事をする、というのは、弁護人の立場と矛盾しません。

刑事手続は、上記二つのケースよりは公益的な側面が大きい手続きですが、それでも、身内の弁護をすることは禁止されません。

実際に弁護活動をするかどうかは別問題

弁護士として、身内の弁護・代理をすることは、法律上は可能です。ただ、実際にやるかどうかは別です。以下、私の主観ですが、やりたくない、という弁護士ほうが多いのではないでしょうか。

たとえば、妻が交通事故を起こして、事故の相手方の責任を追及するというとき、軽微な事故であれば、受けるかもしれませんが、重たい後遺障害が残るようなケースでは、私なら、精神衛生上、他の弁護士に任せることの方が多いような気がします。

同様に、家事事件もあまり関わりたくない。

刑事事件についても同様で、妻の刑事手続に関して、自分が弁護活動をするのは精神衛生上、おそらく厳しい。

刑事手続の追行は他の弁護士に任せて、自分は、被害者への謝罪や賠償に走ったり、情状証人として動いたり、ということになると思います。この場面では、弁護士としてではなく、加害者側になってしまった家族として何ができるか、を考えると思います。

上記のとおり、弁護士として身内の弁護はできますが、やるやらないは全く別問題で、私も含めて、他の弁護士に任せてしまう、というスタンスの弁護士の方が多いような気がします。