たまに質問いただく項目に、「弁護士は六法全部覚えたんですよね」というものがあります。

覚えていない。

全然覚えていません。

質問いただく方が、親しい間柄の方の場合、一旦、「もちろん、もちろん、皆覚えてるよ、ってそんなわけない」などと一旦乗った後、否定します(のりつっこみします)。

他方で、中学生に質問されると、どこまで冗談めいて言っていいのか分からないので「いやいやいや」とすぐ否定することが多いです。

条文を丸暗記する必要は全くない

司法試験に受かるという観点からいうと、条文を丸暗記する必要は全くないです。実務でも同様です。

いわゆる六法は、憲法・民法・刑法・刑事訴訟法・民事訴訟法・商法(会社法)を指します。私の司法試験のときの科目は、これに行政法と選択科目(倒産法や労働法など)が加わりました。

さらに「六法全書」というと消費者契約法やら建築基準法やら、不動産登記法やら、量が膨大になります。これを丸暗記なんておよそ無理です。

六法は暗記したか

じゃぁ、六法(憲法・民法・刑法・刑事訴訟法・民事訴訟法・商法(会社法))の条文は暗記したか。

司法試験に出た科目だから、これくらいやっているのではないか。

結論からいうと、これもやってません。私の周りの弁護士にも、六法を暗記したという方はいないと思います。

私は、六法はおろか、憲法の条文も暗記していません。

ピアノや将棋に例えると

私はピアノや将棋が趣味なので、これに例えて説明します。

ピアノと楽譜を例に

ピアノに例えると、ピアニストの先生が、楽譜見ないで世の中のクラシック全部弾けるか、というところで考えてはどうでしょうか。

およそ無理だと思います。絶対音感があったとしても、暗譜には限度があるはずです。

でも、楽譜があればどうでしょう。プロのピアニストの方であれば、よほどの難局でない限り、楽譜を見れば大抵の局はすっと弾けるはずです。そこに解釈を加えて演奏をすばらしいものにしているのです。

将棋と棋譜を例に

将棋についても。一般的なプロ棋士が、定跡・定跡からの変化、すべて頭にはいっているかというとたぶんそうではない。代表的な定跡は頭に入っているとしても、全部が全部なんておよそ無理でしょう。

プロ棋士の方は、代表的な定跡は抑えつつ、そこからの変化については、毎回読みをいれて思考をめぐらしているはずです。

弁護士と六法全書

弁護士と六法全書の関係もこれに似ています。

条文自体は丸暗記していない。でも、基本的な条文・代表的な条文は押さえている。よく知らない方い法律についても、条文を見れば、その条文に何が書いてあって、解釈上、どこの文言が問題になるのか、どういった効果が見込めるのかについて判断することができる。

もっといえば、そこから、必要な証拠や事実を導き出してます。

もちろん、およそ解釈が難しいものであれば、初見では厳しいかもしれません。ただ、条文を読み込むことで、初めて見る条文についてもおおよその整理はつきます。

司法試験では、その条文の読み方や解釈の仕方を学んできたわけです。

結論

弁護士は六法全書を丸暗記もしていません。民法だけをとってもそうです。民法が全部そらで言えるかというと無理です。仕事にも不要です。

ただ、条文を見て、その解釈をするトレーニングを積んでいるし、代表的な条文の一般的な解釈は知っています。そこから、事案の解決に必要・有用な条文解釈などを施しているのです。