今日のテーマは、裁判で、弁護士費用を相手に請求できるか。

弁護士費用を相手からとってくれ、と言われるケース

依頼者からしばしばご要望をうける事柄として、「弁護士費用」相手からとってください、というものがある。

個人の経験だけでいえば、年に数回は言われる。特に、「訴えられた側」(被告側)から言われることが多い。

訴える側は、金銭請求を行って、勝てば相手から一定の金銭が支払われるという前提にたつので、一定の経済的な満足が得られる、そのため、「相手からとってください」と言われることは少ないように思う。

他方で、訴えられた側。責任が、訴えられた者にある事案であれば、弁護士費用を相手からとってくれと言われることはない。

一番言われるのは、「訴えられた」から弁護士を雇った、そしたら訴えられた側が完全に勝った、というケース。

この場合、自分に法律上の責任がない、それにもかかわらず、着手金や報酬やらの弁護士費用の負担が発生するのはおかしいじゃないか、などの思いに至るのだろうと思う。

一般論:弁護士費用の負担を相手に求めることはできない(原則)

これは、一般論としてできない。日本の司法は、弁護士強制主義をとっていないので、弁護士に依頼をするかどうかは、自由という建前にたっている。

自分の判断で、弁護士をつけるのだから、自分で負担してください、というのが原則的な考え方になる。

弁護士をかならずつけなければならない、との制度の下だと、発想はかわってくるかもしれあいが、なにはともあれ日本はそうではない。

弁護士費用の負担を相手に求めることができるケース(例外)

もっとも、弁護士費用の負担を相手に求めることができるケースもなかにはある。

交通事故などの不法行為責任に基づく請求

いわゆる不法行為責任に基づく請求については、その請求が認められた場合、訴訟で弁護士費用の一部を相手に請求することができる。交通事故や傷害・犯罪行為によって被害が発生したといったケースだ。

相手に故意や過失等の落ち度があるので、弁護士費用の一部は支払ってもらうのが公平、という発想に基づく。

ただ、実際上、判決であれば認容された金額の10%、和解で加味される場合は数パーセントから10%の範囲内に収まることが多い。

たとえば、相手に対して、判決で50万円の請求が認められた場合、弁護士費用として5万円が認容されるケースが多い。

もちろんケースバイケースで、上記以上の弁護士費用の支払いが認められる例もある。ただ、経験・イメージでいえば稀である。

安全配慮義務違反に基づく労働災害

安全配慮義務違反を理由とする労働災害についても弁護士費用の一部の請求が認められる。

考え方は不法行為と一緒で、使用者に落ち度があり、被害者が行う主張・立証内容も不法行為責任とほとんど変わらない、ことを理由とする。

発信者情報開示請求に係る発信者情報開示手続費用

発信者情報開示請求に係る発信者情報開示の弁護士費用についても、全部か一部かを措いて置いて、これを認めるのが一般的な傾向と言っていい。

発信者情報開示手続により、発信者を特定するのは、プロバイダー責任法にもとづき、裁判所の裁判手続を経る費用がある。

その手続を現に行うためには、専門家の手助けが必要だ、という発想で、弁護士費用の請求が認められる。

その費用の請求が全額認められるか否か・一部にとどまるのか、実損害の10%程度とすべきか、などの点については、裁判例や見解が分かれている。

私自身、被告側(訴えられた側)で対応した件があり、弁護士費用の負担額が主要な争点となった。最高裁までいくかもと思っていたが、そうはならずに手続きを終えた。

建築訴訟

建築訴訟において、建物に欠陥が存在することが理由で訴訟提起などをする場合に、弁護士費用を相手に請求することがある。

弊所は、この種の案件を比較的多く受任しており、弁護士費用の一部の請求を相手に求めることも、少なくない。

ただ、現に認められるか否かは、ケースバイケース。

交通事故や労災と異なって、怪我などの人的被害が発生していないこと、争点が「過失」ではなく、あるべき建築がどういったものだったのか、という点になることなどで不法行為などとは、事情が違うのが理由。

契約や管理規約に定めのある場合

その他、契約や管理規約に弁護士費用を相手に請求できる、との定めている場合も弁護士費用を相手に請求できる。

たとえば、管理規約において、管理費請求に要した弁護士費用は、管理費滞納者の負担とする、などと定めているような場合

北九州のマンションの管理規約にはこうした規定があることが多い。こうした定め・規定がある場合、その要件に該当する場合であれば、弁護士費用の請求が可能。

ただ、たとえば、「一切の弁護士費用を請求できる」と書いてあったとしても、それが全部有効かは別問題である。

100万円の滞納管理費を請求する訴訟で、弁護士に80万円はらったケースでこれを全部相手の負担とできるかというと、正直言って難しい。弁護士費用が高すぎる。

なので、たとえば、一切の弁護士費用を請求できると書いてあったとしても、請求できる金額は、妥当な弁護士費用の枠内に収まると理解しておくのがよいように思う。

訴訟費用と弁護士費用

裁判を起こして判決をもらったときに、判決に「訴訟費用は被告の負担とする」などと書いてある。

「訴訟費用」が「被告の負担」と書いてあり、「訴訟費用」とは何かが判決に書いていないため、場合によっては、「訴訟費用」が被告負担と書いてあるじゃないか、弁護士の費用も訴訟にかかった費用なのだから、弁護士費用を払え、と主張されることがある。

弁護士のなかでは、この「訴訟費用」に「弁護士費用」は含まないのは当然の認識なので、この種の主張がでてくるのは、本人訴訟のケースだ。

たしかに紛らわしい名前なので、気持ちも分からなくはないが、こうしたケースでは、「訴訟費用」というのは、印紙や郵券などの費用ですよ、「弁護士費用」は含まないんですよ、と説明をすることになる。

いっそ、「訴訟費用」という名前は紛らわしいので、「裁判所で使われた費用」などと名称を変えたら良い。