交通事故が発生し、事故車両に事故歴が残るなどの理由で、修理費用とは別に、事故によって車両の交換価値が下落したことを理由とする損害が発生することがあります。
これを評価損あるいは格落損などといいます。
評価損の請求主体
たとえば、Aさんが所有している車両が交通事故に遭って、事故歴が残る為に交換価値が下落したとします。
事故発生前は100万円で売れたはずの車両につき、修理しても、90万円でしか処分できなくなったといったケースです。
この場合、当該事故につき、Aさんが無過失の場合、Aさんは交換価値の下落に伴う損害を事故の相手方に求めていくことになります。
評価損の割合
現実的には、事故直前に車両の査定をしている、というケースはほとんどないため、上記のように「100万円で売れたはず」といった証明・立証は困難です。
また、交換価値がどの程度下落したか、について、バチっと確定的に数字をだすのも難しいケースが多いです。
そのため、評価損の金額は、修理費用に対する割合、によって認定されることが多くなっています。
たとえば、修理費用が50万円だった場合に、評価損の金額はその2割の10万円などと認定されます(どの程度の割合になるかはケースバイケースです)。
所有権留保がついた車両について
さて、ここからが、本題、上記のケースはAさんが「所有」している車両に評価損が発生しているので、Aさんが事故の相手方にその損害賠償を請求していくことになりますが、この車について、所有権留保がついていた場合はどうでしょうか。
所有権留保というのは、販売店や金融機関が、その車両の所有権を「留保」している状態を指します。ローン完済によってはじめて所有権が買主に移るといった場合に所有権留保が設定されます。
一般論として
所有権留保されている車両に評価損が発生した場合、だれが評価損の請求主体になるのでしょうか。
この場合につき、車両の所有権は、販売店などの所有権留保者にあるので、評価損はどの販売店などに帰属するという考え方があります。
現在の実務の一般的な考え方です。
この考え方に立つ場合、販売店が事故の相手方に評価損を請求する主体になります。
実質的使用者による請求
ただ、たとえばトヨタファイナンスなどのローン会社が、評価損を事故の相手に請求していくというのは現実的ではありません。
そこで、実質的使用者、要はローンで車両を購入して使用している者が評価損を請求できる、という考え方が現れます。
評価損が現に発生した場合、ローンを完済すれば、所有権は、購入者に移ります。
また、ローンが完済されず、ローン会社が車両を引き上げる場合、評価損が発生していれば、その引き上げ時の査定において評価損部分も加味されるはずです。
実際、ローンであれ車両を購入した者は、その車を自分の車両と考えるのが自然で、評価損は自分ではなく、ローン会社に生じているんだ、との考え方にはほぼほぼならないでしょう。
こう考えると、実質的使用者による請求を認める立場にも相応の理由があるように思われます。
裁判例でも、一定の条件の元、実質的使用者による請求を認めたものもあります。たとえば、所有権留保者である販売店がその評価損の行使・帰属を実質的使用者に認めている、といったケースです。