相続人確定後

 遺言書がなく、相続人・具体的相続分(誰がどの割合で相続するのか)を確定させた後、相続人の全員で遺産分分割協議を行う必要があります。
 遺産分割協議をするにあたり、遺産分割の前提として、「何が遺産(相続財産)に含まれるか」を確定しなければなりません。そこで、本稿では、遺産分割協議対象の財産として何が挙げられるのかをとりあげたいと思います。

遺産分割協議対象の財産となるための条件

 相続は、被相続人(亡くなった方)の死亡により、被相続人の権利義務を承継させることをいいます。そのため、遺産分割の対象となるためには、原則として、以下の条件を満たす必要があります。
 ①相続を原因として開始されること
 ②被相続人死亡時に存在する財産であること
 ③死亡時と同じ形式(債権・預金)であること

具体的検討

債権

 債権とは、AがBに○○してもらえる権利のことを指し、AがBに対して100万円を預けている場合、AがBに対し、貸した100万円を返してもらえる権利という債権が生じています。
 預けたお金を返してもらえる権利は、判例上、相続人各自が当然に取得するので、遺産分割協議という話し合いをしなくとも相続人それぞれが具体的相続分の債権を有していることになります(民法427条)。
 もっとも、預けたお金(預金債権)は、すぐに引き落とせるという意味で現金と変わらない性質を持ち、相続人間の遺産分割協議の細かい調整を行う財産としてちょうどいいものです。そのため、預けたお金を遺産分割の対象とできないとすると、相続人間の調整を上手く図れないという不都合がありました。
 そこで、預けたお金は、遺産分割の対象とすることにできることになりました。
※遺産分割の対象となる場合、遺産は、遺産分割までは相続人間の共有財産となり、遺産分割前に相続人が単独で使うことができなくなります(民法251条)。これだと、預金債権をすぐに必要とする相続人にとって、遺産分割協議対象の財産にすると、お金を引き落とせなくなるというデメリットが生じてしまします。
 そこで、相続人は、各自の具体的相続分割合に応じた預貯金債権の額(ただし、一行150万円が上限)に限り、単独で引き落とせるようになった(民法909条の2前段)。
 引き落とした額は、各相続人が遺産分割対象財産の一部を、一部分割によって取得したとして取り扱われます(民法909条の2後段)。

不動産の賃料

死亡前までの賃料

 死亡前までの賃料は、収受し、銀行等に預けるなどすれば前述の債権と同様の扱いになります。

死亡後~遺産分割協議前

 遺産分割協議の対象となる財産は、原則として死亡時に存在しなければなりません(原則②)。
 賃料は、毎月定められた日に発生するものであるため、死亡後から遺産分割協議前に生じた賃料は原則②をみたさず、遺産分割協議対象の財産に原則として含まれません。

生命保険金

 生命保険金は、生命保険契約により支払われるものであり、相続を原因として開始されるものではありません。そのため、条件①を満たさず、原則として、遺産分割協議対象の財産になりません。
 しかし、遺産総額に比べて生命保険金の額が著しく多い場合といった保険金のことを考慮に入れなければ見過ごすことのできないほどに不公平な場合、例外的に遺産分割協議の対象となる場合があります(判例)。

死亡退職金

 死亡退職金は、被相続人の死亡を原因として支給されるものですが、会社の規定で受取人が定められているものであり、相続を原因として取得するものではありません。すなわち、会社により整備された、死亡退職金は、遺族の生活保障のためという制度であると考えられます。
 したがって、死亡退職金は、相続を原因として生じるものではないため、遺産分割協議の対象財産とならないのが原則です。

実務上の取扱

 上記で、遺産分割協議対象の財産になる財産か否かを説明してきましたが、実務上は、柔軟に考えられています。
 すなわち、遺産分割協議とは話し合いであり、相続人間で話し合いで解決することが円満な解決につながります。そこで、実際の遺産分割協議では、遺産分割協議対象財産に含まれない財産であても、相続人間で合意し、遺産に含めて分け合うことが可能です。
 例えば、上記で説明した死亡後から遺産分割協議前の賃料も、遺産分割協議対象財産に含めて話し合いをすることは可能です。

さいごに

 相続は、死亡から原則として3ヶ月以内に相続放棄をするか否かを決定し、相続する場合には各相続人と話し合う必要があります。
 その話し合いの前提として、誰がどれくらいの割合でどの財産をという問題があり、この問題検討には法的な専門的知識が必要不可欠です。そのため、迅速な検討・解決のために弁護士に相談することをおすすめいたします。
 小倉北九州のひびき法律事務所では、若手からベテランまで在籍し、様々なお悩みに対応可能です。お気軽にご相談ください。