事案

 Aさんは、BMW(初度登録後2年4ヶ月、走行距離1万5148km、時価約236万円)の車を運転しているところ、Bさんが運転する車と交通事故を起こしました。この交通事故により、AさんのBMWの修理費用は100万円かかり、中古車市場での売却価格は130万円まで下がってしまいました。このとき、Aさんは、Bさんに、BMWの価値の下落分である106万円を請求することはできるのでしょうか?

評価損

評価損とは?

 交通事故により、生じた機能・外観の低下や事故歴などにより中古車市場において車体価格が低下することがあります。この交通事故前の価格と交通事故価格の差額を評価損と言います。
 事案においては、BMWの価値の下落分である106万円が評価損ということになります。

評価損の種類

 評価損には、①技術上の評価損と②取引上の評価損があります。
 ①技術上の評価損とは、修理によっても技術上の限界等から機能や外観に回復できない欠陥が残っている場合の損害をいいます。
 ②取引上の評価損とは、事故歴があるという理由で当該車両の交換価値(中古市場での売却価格)が下がる場合の損害をいいます。

どんな評価損でも支払ってもらえるの?

技術上の評価損について

 技術上の評価損については、支払ってもらえることが多いです。

取引上の評価損について

 取引上の評価損については、認められる場合と認められない場合があり、一律に支払ってもらえるとはいえません。また、実務上も、取引上の評価損という概念を認めるか・認めないかについて争いがあります。

取引上の評価損についての学説

・取引上の評価損を認めないとする説(否定説)
 理由:①現実の客観的な価値の低下がないのに評価損を認める合理的理由に乏しい
    ②事故後も時期車両を使用し続ける場合は損害を生じていない
    ③取引上の評価損を認めることは、買い替えが正当でない場合にも買い換えを認めるという同一の利益を被害者に与える物であるから、適切ではない。

・取引上の評価損を認めるとする説(肯定説)
 理由:①下取りに出さなければ現実に損害は発生しないが、自動車の交換価格の低下を損害とみれば、むしろ事故時に交換     価値の減少が発生したと考えることができる。
    ②修理の後も隠れた損傷があるかもしれないという懸念は残る。
    ③事故にあったことで縁起が悪いことなどの理由から中古車市場の価格が事故にあっていない車両より減額される。

裁判例は?

 裁判例は、取引上の評価損を認めたものと認めていないものがあります。そのため、実際の交通事故をもとに考えないと評価損が生じているか検討しなければなりません。

評価損はどのように決まるのか?

 上記の学説は、肯定説・否定説どちらも問題があります。そこで、中村心裁判官は、「取引上の評価損を認めるが、評価損が肯定されるのは、骨格部分・エンジンなど走行性能、安全性能に関わる部分に事故の影響が及んでいる場合に限られる」と提唱しました。この考えからすると、機能上の損傷がある場合のみならず、中古車販売事業者に表示義務のある修復歴がある場合に評価損が認めれると考えられます。
 中古車販売事業者に表示義務のある修復歴は、ボンネットタイプ車及びキャブタイプ車ともに、①フレーム(サイドメンバー)、②クロスメンバー。③フロントインサイドパネル、④ピラー(フロント、センター及びリア)、⑤ダッシュパネル、⑥ルーフパネル、⑦フロアパネル、⑧トランクフラアパネルの修復、ボンネットタイプ車についてのみ、⑨ラジエータコアサポートの交換となっています。上記の考え方では、これらの部分の損傷がある場合に評価損は認められると考えられそうです。
 もっとも、事故により上記の修理箇所があれば、車体の価値が下がらない場合もあるため絶対に評価損が認められると考えるべきではありません。昭和49年の最高裁判決では、事故後直ちに買い換えた場合の損害について、事故との相当因果関係を否定しています。そこで、初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位(人気、購入時の価格、中古車市場での通常価格)等を考慮して、評価損が認められるかを検討すべきです。

事案の検討

 事案の車は、初度から2年4ヶ月、BMWという外国車、購入時の価格不明、当時の時価236万円、中古車市場での売却価格130万円、修理費用100万円、走行距離不明です。
 これらの事実からすると、裁判例の傾向を照らすと、評価損は認められる可能性が高いです。
 もっとも、具体的にいくらの評価損が認められるかは裁判所による判断になりますので、価値の下落分全てが評価損として認められるわけでないことにご注意ください。

最後に

 評価損の有無の判断は、様々な要素をもとに判断するものであるため、判断が難しいといえます。そのため、一度、交通事故に関してお悩みであれば弁護士にご相談されることをお勧めします。
 北九州市小倉のひびき法律事務所では、若手からベテランまで在籍しておりますので、気軽にご相談ください。