1 共同の利益とは

区分所有法(たまに「マンション法」とも言われたりします。)では、特定の区分所有者に対して、共同の利益に反する行為の停止等の請求(区分所有法57条)、使用禁止の請求(区分所有法58条)、区分所有権の競売の請求(区分所有法59条)、占有者に対する引渡し請求(区分所有法60条)をすることができます。マンションの管理組合が区分所有者に対して、これらの請求をするにあたり、区分所有者が「共同の利益」に反する行為を行ったことについて証明しなければなりません。
この「共同の利益」違反行為については、不当毀損行為、不当使用行為(民泊等)、騒音・振動・悪臭等の共同生活上の不当行為、管理費不払い行為などの類型に分かれています。これらの類型の過去の裁判例について整理すると2のようになります。

2 裁判の類型

(2) 過去の裁判例

不当毀損行為
判決 行為の必要性 区分所有者が被る不利益について 裁判所の判断
東京高判S53.2.27

(外壁に穴をあけた)

 

換気をする必要性 穴をあけたことにより、壁面の強度が弱くなり、ひいては建物全体の安全性を弱める結果を招くおそれ。

 

建物の安全性を害する危険をおかしてまで、外壁に開口して換気をはかる程の必要性があるとはいい難い。共同の利益に反する行為にあたる。
東京地判H20.6.24

(建物の共有分に改造・造作等の変更工事をした)

判示なし 正面玄関設置工事は、工事前に玄関のあった場所で行われ、外観・構造・用途の変更はなく、建物の印象も変更しない。

もう一つのドアの設置も従前あったドアの部分に設置しており、外観・構造・用途に変更はない。

本件各設置工事は、共同の利益に反する行為にあたらない。
不当使用行為(管理規約外の利用)
東京地八王子支判H5.7.9

(住居用専用部分で事務所運営)

判示なし 住居専用部分と店舗専用部分からなる複合住宅において、管理規約で用途を1階は店舗・2階は住居と定めるのは、居住者の良好な環境を維持・管理するために不可欠。

住居専用分を事務所として使用することは、居住環境に変化をもたらす。また、被告会社の管理規約違反を放置すると、住居専用部分と店舗専用部分との区画が曖昧になり、やがては居住環境に著しい変化をもたらす可能性が高いばかりでなく、管理規約の通用性・実効性、管理規約に対する信頼を損ない、他の規約違反を誘発する可能性もある。

管理規約で住居専用部分と定められている部分を事務所として使用するのは、共同の利益に反する行為にあたる。

 

⑤東京高判H23.11.24

(住居用区画で税理士事務所を運営)

判示なし 判示なし。 管理規約で住居専用部分と定められている部分を事務所として使用するのは、共同の利益に反する行為にあたる。
東京地判H7.3.2
(店舗部分としての利用が予定されている区画で、パチンコ営業) 
判示なし チラシ・パンフレット・重要事項説明において店舗部分に風俗営業の店舗が入居することが予定されていた。そのため、規約の「共同の利益」には、風俗営業がなされることもありうることが前提であった。

原告の主張する騒音等の不利益の内容は、全証拠によっても確定することができない。

被告において本件内外装工事をして本件店舗をパチンコ店営業の用途に供すること自体が共同の利益に反する行為にあたらない。

※本件は規約に「共同の利益」を規定しており、区分所有法上の解釈ではない。

もっとも、規範は東京高判S53.2.27を採用。

東京地判H17.6.23

(住居専用部分の区画でカイロプラクティック治療院を運営)

 

判示なし 治療院の使用態様は、事業・営業等に関する事務を取り扱うところである事務所としての使用態様よりも、居住者の生活の平穏を損なう恐れが高い。

完全予約制であるといっても、住戸部分に不特定多数の患者が常に出入りしている状況は、良好な住環境であるとは言い難い。

6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」である。

※もっとも、この判決は、原告の請求を権利濫用として退けた。

 

東京地判H18.8.31

(共有部分にクーラーの室外機を設置)

判示なし 本件マンションの共用部分である外壁に第三者が容易に除去し得ないようなクーラー室外機やその固定金物を設置することは,共用部分の用方に従った使用とはいえないし,区分所有法12条1項(現在、区分所有法17条1項)の共有部分の変更であるとまでは認められないとしても,少なくとも同法13条1項(現在、区分所有法18条1項)の共用部分の管理に関する事項に該当する。 共有者の持分の過半数で決することなく,勝手にクーラー室外機等を外壁に設置することは,社会通念上,同法5条1項の建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する。

※本件クーラー室外機の設置等の原状回復請求について信義則違反をいう被告らの抗弁は,理由がある。

東京地判H18.3.30

(マンションを認可外保育施設として使用)

判示なし 騒音の被害は近隣の居住者を中心として深刻、他の居住者からも管理人に苦情が寄せられるなど,受忍限度内にあるとは到底いえない。人数・期間からすると、居住者間で相互に迷惑をかけあうというものとは異なり、居住者に対して一方的に我慢を強いるものである。

砂や泥による廊下等の床の汚れやエレベーターの利用がしづらいことなどの被害。

火災や地震の災害時、託児所利用者・マンションの居住者の避難にも支障を来すおそれがあり、生命身体への危険がある。

 深刻な騒音等の被害、保育施設としてりようすることによりサミット乱入事件・警察官の臨場、マンションの居住環境が損なわれ、火災等の災害時には生命身体への危険も考えられるため、本件保育施設としての利用は共同の利益に反する行為にあたる。
共同生活上の不当行為(騒音・振動・悪臭等)
東京高判H24.3.28

(マンションの管理組合等に対し、ビラ配布等のいやがらせ。最判平成24.1.17[1]の差戻審判決)

判示なし 本件マンション管理組合の取引先等に対する業務妨害行為を行い,さらには,本件マンション関係者に対する暴行及び嫌がらせ行為。それらは,単なる特定の個人に対するひぼう中傷,業務妨害,嫌がらせ等の行為の域を超えるものというべきである。そして,被控訴人の上記行為により,管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じて,本件マンションの正常な管理又は使用が阻害されている 管理組合の取引先等に対する行妨害や、マンション関係者に対する暴行・いやがらせは、共同の利益に反する行為にあたる。
管理費不払い
大阪地判H13.9.5 判示なし 一定程度の管理費の滞納がある場合、管理費用の不足や他の区分所有者との不均衡による障害が考えられる。

現実に、本件ビルについては、管理費滞納によりエレベーターの修繕について支障が生じることは想定される。

 

一定程度の管理費滞納は、共同の利益に反する行為にあたる。
東京地判H19.11.14 判示なし 一部の区分所有者による管理費滞納がある場合、その負担は他の区分所有者にかかり、不公平が生じ、最終的には共用部分の維持管理が困難となる事態を招くことが想定される。

管理費滞納により、現実に管理委託費が不足し、不足分を修繕積立金から補充している。

また、管理費滞納により改修工事費が足りない結果となっており、他の区分所有者に実害が生じている。

一定程度の管理費等の滞納は,共同の利益に反する行為に当たる

[1] 最判平成24.1.17集民239号621頁・判時2142号26頁・判タ1366号99頁

「マンションの区分所有者が,業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し,マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は,それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので,それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には,法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地がある。

3 裁判例をみて分かること

裁判所は、共有部分の毀損行為について、何故その行為が区分所有者の「共同の利益」に反する行為と詳細に論証することなく認定しています。一方、裁判所は、管理費不払いについて、管理費・修繕積立金の不払いが「共同の利益」に反する行為といえるのかについて詳細に論証して認定しています。このことから、管理費・修繕積立金の不払いを理由に「共同の利益」違反を主張するのであれば、慎重に主張・立証(証明)しなければならないといえそうです。

北九州市小倉のひびき法律事務所では、区分所有法(マンション法)に精通している弁護士が在籍しております。なにかございましたら、気軽にご相談にいらしてください。