今回は、賃貸物件が火災により焼損した場合における契約の解除・損害賠償請求についてです。

AさんがBさんに不動産を賃貸していたところ、Bさんの不始末・不注意により火災が発生して、賃貸物件が焼損したというケースを念頭においています。

火事・火災を原因とする賃貸借契約の解除

AさんがBさんにアパート/店舗建物を賃貸していたところ、Bさんの不注意により、火事が発生したというケースで、AさんはBさんとの賃貸借契約を解除して、建物の明け渡しを請求できるでしょうか。

賃貸契約は信頼関係を前提とする

通常、賃貸借契約は、互いの継続的な信頼関係を前提とする契約と評価されており、賃貸人からの解除は軽々には認められません。

たとえば、一回賃料の不払いがあり、債務不履行が認められるからと言って、これをもって直ちに契約の解除はできないと理解されています。

火災の場合はどうか。

では、火事・火災の場合はどうでしょうか。

この場合、不注意のレベルや火災の程度にもよりますが、契約の解除が認められる蓋然性が相当程度高いものと理解されます。

この点に関し、最高裁昭和47年2月18日判決はつぎのように述べています。

最高裁昭和47年2月18日判決
賃借人がその責に帰すべき失火によつて賃借にかかる建物に火災を発生させ、これを焼燬することは、賃貸人に対する賃借物保管義務の重大な違反行為にほかならない。

したがつて、過失の態様および焼燬の程度が極めて軽微である等特段の事情のないかぎり、その責に帰すべき事由により火災を発生せしめたこと自体によつて賃貸借契約の基礎をなす賃貸人と賃借人との間の信頼関係に破綻を生ぜしめるにいたるものというべく、しかして、このような場合、賃貸人が賃貸借契約を解除しようとするに際し、その前提として催告を必要であるとするのは事柄の性質上相当でなく、焼燬の程度が大で原状回復が困難であるときには無意味でさえあるから、賃貸人は催告を経ることなく契約を解除することができるものと解すべきである。



上記事案において、最高裁は、不注意のレベル及び火災の程度が極めて軽微と言えない限り、賃借人の賃借物保管義務違反を理由に契約の解除を認めています(催告も要しない)。

冒頭の事例において、契約が解除できるか否かもこの最高裁の判断を基礎として、不注意のレベル及び火災の程度が極めて軽微と言えるか否か、そうでなければ基本的には契約の解除が認められると考えるのが相当です。

損害賠償・保険金請求

火事・火災によって発生した賃貸人の財産的損害はどう回復されるのでしょうか。

原状回復費用

賃貸物件が賃借人の不注意を理由に焼損した場合、賃借人は、当該火災によって発生した損害を賃貸人に請求することができます。

たとえば、当該物件の補修費用等の原状回復費用がこれに該当します。ただし、これをどこまで請求できるかは、補修方法の合理性や火災保険加入の有無によって大きく異なってきます。

これに対して、賃借人が、火災保険に加入している場合には、原状回復費にかかる保険金請求を保険会社に請求しえます(賃貸人が自ら火災保険に加入していた場合、賃貸人において同保険も利用しえます。)。

賃借人が加入していた火災保険により原状回復費用に掛かる保険金が支払われた場合、支払われた額に応じて賃借人の原状回復費の支払義務は減縮します。

賃料・賃料相当損害金

また、賃借人が、火事によって焼けた部分以外の部屋をなお利用しているといった場合、賃貸人は契約が解除されるまでは、賃借人に賃料を請求することができます。

また、賃貸人が解除した後、なお、賃借人が建物を利用していると言った場合、賃貸人は、現に明渡しが為されるまでの間の賃料相当損害金(契約によって違約金が定められている場合もある)を賃借人に請求することが可能です。

弁護士にご相談を

上記のような事例においては、賃貸人の側からすれば、賃借人の不注意の程度をどう主張・立証していくか、賃借人の側からすれば、不注意がなかったことをどう主張・立証していくか、が重要な事柄となります。

また、原状回復費用の程度などを巡っても大きな争いとなることが少なくありません。

賃貸借契約にかかるトラブルにお悩みの場合には、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。