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今回は、店舗やビルにおける転倒事故について解説します。

スーパーやコンビニでの転倒事故は、北九州市内でもしばしば発生している事故の一つです。裁判例などにもしばしば現れます。

転倒事故が問題となるケース

転倒事故は、日常生活で遭遇する事故の一つです。普段、普通に歩く分には問題がない方でも遭遇します。

どんな場合に発生するか

転倒事故が発生やすいのはどんな場合でしょうか。

特に問題となることが多いのは、床面・フロアが雨や零れた水などで、濡れていた場合です。

私が案件として相談対応したことがあるのは次のような場合です。

・雨で店内入口のフロアが濡れたままになっていた場合

・スーパーの鮮魚店で氷がこぼれて濡れていた場合

・店舗の水拭き掃除において、水の拭き取りが不十分だった場合

こうした場合において、床がぬれていることに気が付かず、通常の速度・態様でその床面を歩行すると、転倒事故が発生しがちです。

転倒事故による怪我

いったん転倒したとしても、幸いにして、大きな怪我につながらなかったというケースでは、大きな紛争に発展することはあまりありません。

他方で、濡れた床面に気が付かず、歩行して転倒したという場合、本人がまさか床が練れているとは、と店頭に備えていないために、あるいは予測できなかったために、場合によっては、ひざや尾てい骨、手のつき方によっては、手関節に骨折などの重大な傷害が発生することがあります。

さらには、骨折に引き続く後遺症の残存といった結果まで発生するケースもあります。

こうしたケースにおいては、転倒者と店舗側とで損害の賠償を巡り深刻なトラブルとなりえます。

法律上の責任

店舗床面が濡れていた、あるいは汚れていたことが原因で、転倒事故が発生した場合、被害者が、店舗側に損害賠償を請求するための法律上の構成としては、大きく二つ考えられます。

土地工作物責任

一つは、土地工作物責任。民法の717条に規定があります。

これは、土地の工作物(ここではコンビニやスーパーなどの店舗・ビル)が通常備えるべき安全性を備えていない、といった場合(たとえばそもそも通常よりも滑りやすい素材でフロアがつくられているようなケース)において発生しうる当該工作物の管理者等(厳密には占有者等を指す)の責任を指します。

ごく大雑把に言えば、建物の作りがもともと悪い、といった主張になります。

民法717条
民法第717条 (土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作 物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。 ただし、 占有者が損害の発生を 防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。


不法行為責任(安全配慮義務違反)

もう一つは不法行為責任です。これは、店舗管理者が客の安全に配慮する義務に違反した場合の責任を指します。

顧客の安全に対して、配慮を欠いたことを理由とする責任です。

たとえば、スーパーやコンビニなどの店員が、床面を濡れたまま長時間にわたって放置していた、といったケースで問題となります。

店側の責任は、必ずしも上記に限られるものではありませんが、転倒した者が、被害者として店側に責任を追及する際には、上記のような法的責任を店側に問えるか、を検討していくのが通例です。

裁判上の争点

転倒事故における裁判に際しては、転倒した者側の事情・店側の事情双方が問題となります。

転倒した側の事情

転倒した側の事情として裁判でしばしば問題になるのは、転倒事故に関して、転倒した側に一定の落ち度がなかったかです。

たとえば、両手いっぱいに重たいものを持っていなかったか、転倒事故に際して、急ぎ足であったり、走ったりしていなかったかが検討の対象となります。

また事故当時、はいていた履物、靴がどんなものだったかも、検討の対象となります。

ビルや店側に落ち度がなく、もっぱら、転倒した者の落ち度が原因で事故が発生したという場合、店側に責任を問うことはできません。

店側の事情

店側の事情としては、そもそも店内が水などでぬれていたか、か問題となります。

また、普段、床が水に濡れていた場合、どのような対処をしていたのか、床で滑るのを防ぐために、濡れやすい場所(鮮魚店など氷をつかうような場所)にマットなどを敷いていたかなども問題となります。

これとは別に、床の素材が転倒しやすい素材でなかったか、なども検討の対象です。

過失相殺

ビルや店側にも落ち度がある一方で、転倒したものにも落ち度があると言った場合、つまりは双方に落ち度がある場合はどうでしょうか。

この場合、店側の責任は肯定されます。

しかし、転倒した者の落ち度も考慮しないと、不公平な結果となります。

そこで、その責任の割合は、転倒した者の落ち度に応じて減じられるのが一般的です。

これを過失相殺といいます(裁判例でも、転倒事故の場合、転倒した者にも一定の過失があるとされる例がしばしば散見されます。)

たとえば、転倒者側にも30%の過失があるという場合、全体の損害が100万円とすれば、相手に請求できるのは、その7割である70万円ということになります。

損害賠償の範囲

転倒事故が発生した場合に、損害と認められるものは、ケースバイケースで考えることとなりますが、多くの場合、次のような損害が対象とされます。

傷害部分

後遺症外以外の損害にはたとえば次のようなものがあります。
➀ 治療費
  病院代や病院における診断書代などを指します。

➁ 通院交通費
  通院交通費です。車両で通院した場合、1キロ当たり15円程度で算定されることが多いです。

➂ 休業損害
  怪我によってお仕事を休まざるを得なかった場合や、主婦の方が主婦業をできなかったような場合に請求できます。

後遺障害部分

後遺障害が発生した場合に生じる損害としてはたとえば次のようなものがあります。
➃ 慰謝料
  怪我によって生じた精神的苦痛に対する賠償金です。

➄ 後遺障害慰謝料
  後遺症が残存することによって生じた精神的苦痛に対する賠償器です、

⑥  逸失利益

法的手続

転倒事故における被害者が店舗側に損害賠償を求めるには、次のような手続をとるのが通例です。

➀証拠の収集

②示談交渉

➂訴訟提起などの裁判手続

上記②の示談交渉というのは、話し合いで紛争を解決する手続です。訴訟に至る前に、互いに責任の有無や賠償の範囲に関して折り合いが付けられないか、を協議する手続となります。

②示談交渉がうまくいかない場合、さらに手続を前に進める際には、裁判所の判断を求めて➂訴訟提起に至ることもあります。

ビルや店舗などにおける転倒事故に遭遇したら弁護士に相談を

転倒事故が発生した場合、法的責任の有無や転倒者側の落ち度・損害の範囲などを巡り、往々にして、紛争が激化することがしばしばあります。

また検討の対象も多岐に渡っており、その解決は一朝一夕ではできません。

転倒事故にかかるトラブルに遭遇した場合、ぜひ一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。

※なお、弊所は大手保険会社の業務を受託しており、相手方店舗の施設賠償保険にかかる保険会社が当該保険会社だった場合、事件をお受けできないことがございます。あらかじめご承知おきください。