ビジネス実務法務入門連載、今回のテーマは弁済をすべき場所についてです。
ある契約が成立した場合、当事者の双方(双務契約)又は一方(片務契約)は、その債務を弁済する義務を負います。
たとえば、売買であれば、売主は商品を引き渡す義務を負います。
では、その義務を履行すべき場所はどこでしょうか
弁済の場所に関する民法の規定
民法は、弁済をすべき場所について、いくつかのルールを置いています。
原則的ルール
原則的なルールを定めているのが民法484条第1項です。次のように定めています。
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
この規定によれば、ある特定された商品等の引渡しは、債権発生の時の場所にて行うのが原則となります。
また、それ以外の弁済については、債権者の現在の住所で行うのが原則となります。
売買における特別のルール
上記民法第484条は、民法における原則論を定めていますが、同法は、売買につき、さらに特別のルールを定めています。
売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。
この規定によれば、売買の目的物の引渡と同時に売買代金を支払うこととされた場合、目的物の引渡し場所が代金支払の場所となります。
弁済の場所に関する商法の規定
また、商法は、商行為によって生じた債務の履行場所につき、次のようなルールを置いています。
商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは、特定物の引渡しはその行為の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない。
この規定によれば、特定された商品の引渡しは、商行為の時にその物が存在した場所において行うことになります。
それ以外の債務については、債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)にて行うこととなります。
契約で定めた場合は契約による
もっとも、常に上記の民法や商法のルールを維持しなければならないとすると、商品が遠方にある場合や、債権者の住所ないし営業所が遠方にある場合、履行自体に多大なコストがかかってしまいます。
そこで、重要なビジネス契約においては、履行の場所を契約書に定めるのが通例となっています。
履行の場所を契約書で定めた場合、上記民法や商法の規定よりも契約書の内容が優先します。黙示的に履行場所を定めていると解される場合も同様です。
このことは、民法484条1項に「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは」と記載され、商法560条において「債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは」と規定されていることからも明らかです。
商品の引渡しについていえば、たとえば、契約書上、「○○倉庫にて引き渡す」など規定して、履行の場所を決めることになります。
補足 弁済をすべき時間
上記は、弁済をすべき「場所」についての説明となりますが、民法484条1項が登場いたしましたので、弁済をすべき時間に関して規定した同条第2項について、ここで補足します。
民法424条2項は次のよう定めて、弁済などをすることができる時間につき、法令や慣習等により取引時間等の定めがある場合、弁済ができるのはその取引時間内に限る、としています。
この種の規定は、かつては商法に定められていましたが、民法改正に際して民法に規定されることとなり、このルールは私法における一般的なルールとして規定されることになりました。
法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる。