債務の履行たる弁済とは?売買契約を例に

ビジネス実務法務入門連載、今回のテーマは「弁済の意味」ついてです。

抽象的に考えていても分かりにくいかと思いますので、今回は、売買契約を例に、弁済とは何か、につき解説します。

売買契約の効果について

売買契約というのは、その名の通り、売り買い契約です。

たとえば、ある商品を売り出しているAさんと、その商品を購入したいというBさんが、売り買いの合意をすることで成立します。

買主の権利と売主の義務

売買契約が成立した場合、売主は、目的物を引き渡す義務を負います。

商品の売買契約であれば、売主は商品を買主に引き渡さなければならないことになります。

これを反対から見ると、買主は、商品を引き渡せと売主に請求できる権利を有することになります。

売主の権利と買主の義務

売買契約が成立した場合、買主は売買代金を売主に支払う義務を負います、商品の売買であれば商品代金の支払い義務が課されます。

これを反対から見ると、売主は買主に対して売買代金を支払え、と請求できる権利を有することになります。

弁済(債務の履行)とは

弁済というのは上記のような債務(義務)の履行のことを指します。

売主が商品を引き渡すのも弁済の一つですし、買主が代金を支払うのも弁済の一つです。

契約についていえば、契約上の義務の履行のことを「弁済」と呼びます。

弁済の効果

弁済がなされると、債務が消滅します(民法473条)。

売買代金の支払い義務についていえば、これを支払ったとき、その義務が消滅することになります。

民法第473条
債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。

なお、民法は、銀行振り込みによる弁済につき、弁済の効力発生時を定めています。

民法によれば、銀行振り込みによる弁済は、債権者がその払い込みに係る金額の払戻しを受けられる権利を取得した時に効力が生じることとなります。

大雑把に言えば、債務者からの振込時点ではなく、そのお金が着金して、債権者が銀行からの払渡しが受けるべく請求できるようになった時点で弁済の効力が生じることになります

民法第477条
債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。

第三者による弁済

なお、弁済は、一定の条件の下で第三者が行うことも可能です(民法474条)。

たとえば、Bさんの代金支払義務につき、Bさんに代わって第三者たるCさんがこれを履行することも、一定の条件の下で可能です。

なお、有効に弁済がなされた場合、当該第三者は、債権者に代位します(民法499条)。債権者が債務者に対して有していた権利を行使できるということです

民法第474条
1 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。

民法第499条
債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。

弁済の方法や費用などについては契約書に定めることが多い

以上、弁済とは何かについて見てきましたが、ビジネスにおいて重要な契約などを行う場合には、弁済の方法や、履行の場所、費用などについても契約書で定めるのが通例です。

「代金を振り込みで支払う、その費用は買主の負担とする」などの趣旨の条項を設けることもあれば、「引渡場所は、買主指定の倉庫とする」など、履行の場所などを指定することもあります。

契約書で弁済の方法などについて定めていない場合、弁済の方法などについては、民法や商法の規定に従うことになります。