ビジネス実務法務入門連載、今回のテーマは期限についてです。

法律学という面ではマイナーな分野かもしれませんが、ビジネスにおいては重要な意味をもつ概念です。

「期限の利益」という概念と合わせてみていきます。

期限について

民法上の意味に置いて、期限というのは、将来到来することが確実な事実であって、その到来を法律効果の発生や消滅をかからしめるもの、あるいは債務の履行期とするものをいいます。

確定期限

契約書などで期限を定める場合、一番端的な例は、「本契約は、令和〇年〇月〇日に失効するものとする」などと、日時をもって、期限を定める例です(契約の効力に関し終期を定めた例)。

このほかにも、「本契約は本契約締結日から1年後に発効することとする」などの定め方があります(契約の効力に関し始期を定めた例)。

このように期日の確定した期限のことを確定期限といいます。

なお、期限の内、期限到来により法律効果が発生するものを始期といい、反対に法律効果が消滅するものを終期といいます。上記の例の内、前者(契約の失効)は終期を定めたもの、後者(契約の発効)は始期を定めたものです。

参考 民法第135条  
1 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。
2 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。

不確定期限について

また、日時を特定したり、期間をさだめたりする方法(確定期限を定める方法)以外にも、「期限」に該当するものはあります。

たとえば、「Aさんが死亡した場合には○○とする」などと定めるのは、いつAさんがお亡くなりになるか不明なものの、いずれは到来することが確実な事実を定めるものですので、やはり期限に該当します。

このように、将来到来することは確実であるが、いつ到来するかは不確定であるものを不確定期限と呼びます

期限の利益について

また、債務の履行期についても期限が定められることがあります。

たとえば、債務者が債権者に対して「今日から1か月後までに10万円を支払う」という合意をする場合です。

この場合、債務者には、「1か月間は、金銭を支払わなくてもよい」、という猶予が与えられます。

期限が定められることによって得られるこの義務履行までの猶予を、期限の利益といいます(なお、厳密には、「期限の利益」には、債権者にとっての利益というのもありますが、示談書などで規定される「期限」は、往々にして債務者にとっての利益である、ということが多いです(民法136条1項も参照)。)

期限の利益の放棄

期限の利益は放棄することが可能です(民法136条2項)。たとえば債務者が期限前に弁済をするケースがその例です。

もっとも、当事者の一方が期限の利益を放棄する場合、これによって相手の利益を害することはできません(同但書)。

債務者が期限の利益を放棄する場合を念頭に置くと、たとえば、期限までに債権者が受け取ることのできたはずの利息などが、「相手の利益」に該当します。

そのため、期限の利益の放棄によって相手の利益が害される場合、放棄をした者はその補填を要する、というのが建前です。

参照 民法136条
1 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

期限の利益の喪失

契約書などにおいて債権者が債務者に期限の利益を与える場合、同時に、期限の利益を債務者が喪失する事由についても定めることが多いです。

民法は、債務者の破産などを期限の利益喪失事由としていますが(民法137条1号)、契約書や示談書において、期限の利益を付して分割払いの合意などをする場合、同時に期限の利益を喪失する事由を定めた期限の利益喪失条項も併せて規定するのが通例となっています。

たとえば、分割払いを定めた示談書などにおいて「債務者が2回以上弁済を怠り、滞納額が合計〇〇円に達した場合、債務者は期限の利益を喪失し、残額を直ちに支払う」という趣旨の規定を置くのがその例です。

参照 民法137条
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
一  債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二  債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。