ビジネス実務法務入門連載、今日のテーマは、契約の有効要件についてです。
契約は、当事者間の意思の合致によって成立します。
具体的には、契約をしたいという「申し込み」とこれに対する承諾により、契約は成立することになります。
もっとも、契約の成立が認められても、当該契約が有効か否かはまた別問題です。
契約が有効と言えるための3つの要件
契約が有効と言えるためには、次の3つの要件が満たされているといえなければなりません。
① 契約内容が確定していること
② 契約内容が強行法規に反しないこと
③ 契約内容が社会的妥当性を有していること
以下それぞれ見ていきます。
① 契約内容が確定していること
契約の成否の問題とも関連しますが、契約が有効であるといえるためには、契約内容が確定していなければなりません。
契約内容があいまい・不明確では、当該契約にどのような法律効果があるのかが分かりませんので、契約としての有効性を欠くことになります。
契約内容が不確定なんてことあるのか、と思われるかもしれませんが、実務的には、有効性が怪しいものもしばしば目にします。
目的物の特定がイマイチな契約書や、義務履行者が誰なのかよくわからない示談書などに頭を悩ませることもあります。
契約を締結するときには、一義的にその内容を特定することが重要です。
② 契約内容が強行法規に反しないこと
また、契約が有効と言えるためには、契約内容が強行法規に反しないものでなければなりません。実現可能なものでなければなりません。
たとえば、労働基準法が定める労働条件を下回るような雇用契約を締結しても、労働基準法と抵触する部分は効力を有しません。
また、民法上の組合契約に関し、やむをえない場合にも構成員が組合から脱退できないこととするような契約は、民法678条に反し、無効と解されます。
自社に有利な契約締結を望むのは、リスクマネジメント・利益最大化の面からは当然のことですが、契約書作成等に際しては、業法・労基法その他の法律にかかる強行法規に反することのないよう注意が必要です。
③ 契約内容が社会的妥当性を有していること
また、契約内容が有効であるといえるためには、契約内容が社会的妥当性を有するものでなければなりません。
誰が、どうみてもその契約は、おかしいでしょ?社会的価値観・倫理に反するでしょう、という内容の契約は、民法90条により無効とされます。
参考までに条文をあげておきます。改正民法が前提です。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
民法90条というのは、「公序良俗」に反する行為を無効とする規定です。
たとえば、超高金利でお金を貸し付ける行為は暴利行為として、民法90条に反し無効とされる場合があります。
また、労働者を働かせ放題働かせることができるような定額残業代制度を採用することも、民法90条に反して無効と解されます。
また、思想信条や性差であることだけを理由に、労働条件に付き、差別的な待遇を設けることも公序良俗に反するものと解されます(個別法規にも反しえますが・・・。)
会社として、ある行為につき、「公序良俗に反する」との認定を受けるダメージは、重たいものがあります。
契約締結に際して、自社に有利な契約を求めるにしても、それが社会的に許容されるものか否かは、きちんと検討しなければなりません。
補足(契約の原始的無効と契約の有効性)
改正前の民法では、契約・法律行為の有効要件、という場合には、上記①~③のほか、「契約が実現可能であること」が合わせて指摘されることが多かったように思います。
契約が原始的に履行不能な場合、つまり実現が不可能な場合、契約は無効と処理されていたからです。
ところが、改正民法においては、契約上の義務が原始的に履行不能であった場合、相手方に対してその義務の履行請求はできないが、債務不履行による損害賠償請求は可能なもの規定されるに至りました。
正面から、契約の有効性を規定したものではありませんが、原始的に履行不能な契約は無効であるという改正前の民法の考え方を改めたものと評価されます。
参考までに条文をあげておきます。
①債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
②契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。