ビジネス実務法務入門連載、今回のテーマは表見代理についてです。

代理制度において、無権代理人の相手方を保護するための重要な制度です。

この表見代理に関し、民法は3つの条文を置いています。

民法第109条、同110条、同112条です。

一通り押さえておきましょう。

表見代理とは

表見代理というのは、無権代理行為がなされた場合に、あたかも無権代理人が代理権を有するような外観を有している場合に、相手方の善意・無過失などを根拠に、当該無権代理にかかる取引の効果が本人に帰属したのと同様の請求権を相手方に認める制度です。

難しい言い回しをしてしまいましたが、つまりは、無権代理行為の相手方に保護に値する事情がある場合に、本人の責任を認めて相手方を保護しようという仕組みと言えます。

無権代理人は、無権代理行為につき、相手方に対し、その責任を負いますが、それだけでは相手方の保護が不十分なため、民法は表見代理の仕組みを設けて相手方の保護を図っています。

たとえば、成人している子供が親を代理して取引を行ったが、実際には代理権はなかったという場合、その取引は子が勝手にやったことですから、本来、親に責任は問えませんが、表見代理の下では、その親に対しても責任を問いうる、ということになります。

民法が定める3つの表見代理

民法が定めている表見代理の類型は次の3つです。

・代理権授与の表示による表見代理等(民法109条)
・権限外の行為の表見代理(民法110条)
・代理権消滅後の表見代理等(民法112条)

以下、民法改正によって改正された条文をそれぞれ見ていきましょう。

民法109条 (代理権授与の表示による表見代理等)

民法109条第1項は、あたかも代理権があるかのような表示を本人が行った場合に関する表見代理を定めたものです。

たとえば、代理権があるかのような書類を作成して、印鑑証明とともに交付したりする行為がこれに該当します。

表見代理の中でも、本人があたかも代理権があるかのような外観を作出している点で、本人の非が大きい類型と言えます。

この代理権授与の表示がなされていた場合、無権代理をされた本人が、「相手方が代理権の不存在を知っていた」、「または知らなかったことにつき過失がある」、と証明できない限り、本人は相手方に対して責任を負うことになります(民法109条 ただし立証責任については解釈上、争いが生じる余地はある)。

先ほどの例では、子供が行った行為につき、親が責任を負う、ということです。

なお、民法109条には第2項もありますが、これについては後述します。

民法109条
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

民法110条(権限外の行為の表見代理)

民法110条は、与えられた代理権の範囲を超えて代理人が法律行為を行った場合に関する表見代理を定めたものです。

たとえば、商品Aの取引について代理権を与えていたところ、商品Bについて代理人が取引を行った、などがその例です。

代理人に適正な代理権(これを基本代理権といいます)が存することを前提としています。

本人は、代理人に基本代理権を与えただけですから、上記のような109条の場合と異なり、その非は大きくありません。

そこで、この場合に相手方が本人の責任を追及するには、相手方において、当該代理人に権限があると信ずるべき正当な理由(種々解釈あるも、善意・無過失と解されています)を基礎づけるだけの事実を立証することが必要です。

民法110条の要件が満たされる場合、代理人が行った権限外の行為について本人は責任を負うことになります。先ほどの例では、本人は、無権代理人が行った商品Bの取引にかかる義務の履行をする責任を負います。

民法110条
前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

民法112条(代理権消滅後の表見代理等)

民法112条1項は、代理権消滅後の表見代理について定めた規定です。

一度本人が与えていた代理権が消滅した後、代理権を与えられていた者がなお代理人として取引を行った場合を想定しています。

民法112条によれば、取引の相手方が、自らが善意であること、つまり代理権の消滅を知らなかったことを立証しえた場合、本人は、原則として無権代理行為につき責任を負います。

ただ、例外的に、本人が、相手方の過失を基礎づける事実を証明できた場合には、本人はその責任を免れることが可能です。

民法109条の場合より本人の立証の負担は軽く、他方で110条の場合よりも本人の立証の負担は重いものとして構成されていると考えられます。

なお、112条2項については後述します。

民法112条
他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

民法改正と重畳適用

民法改正前においては、事案によっては、民法109条と民法110条を重ねて適用する。、民法112条と同110条を重ねて適用される、といった議論がなされていました。

たとえば、本人が表示した代理権以上の代理行為を無権代理人が行った場合には109条、110条が重畳適用される、消滅した代理権以上の法律行為を無権代理人が行った場合には112条、110条が重畳適用される、といった議論です。

改正民法はでは、改正前民法下において重畳適用が議論されていた事案ケースを念頭に、新たに正面から規定を設けています。。

民法109条2項と民法112条2項です。旧民法化で重畳適用の可否が問題となっていた事案につき、これらの規定に照らして、本人の責任を有無を判断していくことになります。

民法109条2項
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

民法112条2項
2  他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。