契約が有効に成立するためには意思表示の合致が必要です。

たとえば、売買契約が成立するためには、売主による「売る」という意思と買主による「買う」という意思表示が合致していることが必要になります。

ところが、意思表示の中には、瑕疵のある意思表示というものが存在します。たとえば、詐欺や強迫にあって「買う」と言ってしまったなどがその例です。

瑕疵ある意思表示とは

民法は、意思表示に瑕疵がある場合として、次の5つの類型につき規律しています。

① 心裡留保
② 通謀虚偽表示
③ 錯誤
④ 詐欺
⑤ 強迫

①及び②はいずれも、意思表示が無効となりうるケースであり、③~⑤は意思表示が取り消されうるものです(令和2年施行の改正民法を前提)。

意思表示が無効となる場合

まず、意思表示が無効となる(なりうる)場合として、心裡留保と通謀虚偽表示について見ていきます。

① 心裡留保

心裡留保というのは、本心ではその意思がないのに、それを知りながら行った意思表示をいいます。

本当は、会社を退職する意思はないのに、もうやめる、などと言ってしまうケースや、本当は買う気もないのに、よし買ったと言ってしまうケースなどがこれに該当します。

心裡留保にかかる意思表示は、民法上、原則として有効です。そのため、売主に対して、買う気もないのによし買った、などと言ってしまうケースでは、原則として売買契約が有効なものと扱われます(民法93条本文)。

しかし、相手方が、真意がないことを知って、または知ることができた、という場合、心裡留保にかかる意思表示は無効となります。

上記ケースでは、売主が、「買主は本当は買う気はないな」と分かっていた、あるいは分かり得たというような場合には心裡留保は無効となります。

② 通謀虚偽表示

通謀虚偽表示というのは、相手と通謀して行った虚偽の意思表示をいいます。たとえば、A所有の不動産につきにつき、執行対策などのために、Bと意を通じて売買の形をとり、名義だけ、形だけBに変えておこうといったケースがこれに該当します。

この通謀虚偽表示、学生のころは教科書で勉強するだけでしたが、私も弁護士になってから、「これ、通謀虚偽表示だ」と思ったケースがあります。北九州でもたまにあるんですね。

通謀虚偽表示は、無効です。そこに、相当事者間ともにその意思表示にかかる法律効果を実現する真意に欠けるからです。したがって、上記AB間の売買は無効です。

ただ、通謀虚偽表示が行われた後、第三者が関与するケースがあります。上記ケースでは、名義を得たBが、自分の不動産として第三者たるCに売ってしまうといったケースがこれに該当します。

民法は、このような第三者が善意の場合、つまり事情を知らなかった場合には、通謀虚偽表示を行った当事者は、その意思表示が無効であることを主張できない旨定めています。

上記ケースでは、Cが、AB間の売買が単に形式上名義を変えるだけの物であったと知らずに、当該不動産を購入していたといった場合、Cは有効に当該不動産を取得できます。

意思表示が取消の対象となる場合

次に、意思表示が取消の対象となる場合として、錯誤と詐欺、強迫について見ていきます。なお、取消というのは、本人の「取り消す」という意思表示により契約を事後的に無効とする行為をいいます。、

③ 錯誤

錯誤というのは、契約における重要事項や、契約にいたるまでに表示された基礎事情(動機等)の内、重要視されていた点に誤信があったといった場合を指します。

たとえば、商品「A1」だと思って買うといったものが、実は商品「A2」だったというような場合がこれに該当します。

錯誤にかかる意思表示は、原則として取り消しの対象です(令和2年施行の改正民法を前提とする)。事後的にキャンセルできる、ということです。

この場合、互いに受け取ったものがあれば、互いに、受け取ったものを返還することを要します。売買を例にとれば、買主は、商品を返却し、売主は代金を返却するということになります。

ただ、錯誤のあった当事者に重大な不注意があったような場合には、例外的に取り消しができません。

このような場合には、錯誤のあった本人よりも、その相手方を保護すべきという価値判断が働くからです。この場合、契約は有効なものと扱われます。

④ 詐欺

詐欺というのは、騙された結果、意思表示をしてしまうことを言います。

典型例は、Aブランドの商品であるかのように装ってこれを売却するなどが該当します。

まっとうなビジネス・取引においては、詐欺が問題視されることはあまりないと思いますが、商品の脚色などが詐欺に該当すると指摘・主張されるケースは散見されます。

詐欺によって意思表示がなされた場合、その意思表示は取消の対象です。事後的になかったことにできる、ということになります。

⑤ 強迫

強迫というのは、人に恐怖の念を生じさせる行為をいいます。

強迫による意思表示も取消の対象です。脅迫されて売買をしたものは、その売買にかかる意思表示取り消すことによって、契約の効力を否定することが可能です。