今回のテーマは、制限行為能力者の相手方の保護についてです。

民法は、制限行為能力制度のもと、制限行為能力者に対して手厚い保護を図っていますが、他方で、その相手方を保護する諸手当も置いています。

今回は、民法におけるその手当について説明します。

詐術が用いられた場合

制限行為能力制度の下では、制限行為能力者が単独で行った契約などの法律行為は、制限行為能力者側から取り消されうるという瑕疵を帯びた契約です。

たとえば、未成年者が、親の同意を得ずに、単独でバイクを買ったという場合、その売買契約は、事後的に取り消されてしまう可能性があります。

しかし、たとえば、その売買契約に際して、未成年者が親の同意を得ているなどと嘘をついた場合はどうでしょうか。

このような場合にも、上記のバイクの売買契約は取り消されてしまうのでしょうか。

この点に関し、民法第21条は、「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない」旨定めています。

要は、単独で法律行為を行いうる行為能力者であるとか、同意権者(未成年者の親権者など)の同意を得ているといった点につき、「詐術」を用いて相手方を誤信させ法律行為を行った場合、その法律行為は取り消しえなくなるというものです。

なお、ここでいう詐術というのは、積極的に相手を騙そうとする行為を指します。

単純にうそをついた、相手に年齢を聞かれて黙っていたという程度では、これには該当ないと考えられますが、たとえば、次のような場合には「詐術」があるものと解されます。

・年齢を偽称するために免許証のコピーを偽造した。
・親の同意を得ていると誤信させるため、電話確認の場面で、友人・知人に親になりすましてもらった。

相手方の催告権

制限行為能力者による法律行為は、上記の通り原則として取り消しえます。そして、取り消すか否かのイニシアティブは、第一義的には制限行為能力者側にあります。

しかし、制限行為能力者が取り消すか取り消さないか、いつまでたってもわからないというのでは、相手方としては、安心して次のステップに進めません。

たとえば、未成年者のバイクを買った(未成年者がバイクの売主・相手方がバイクの買主という場面)では、その売買が取り消されるか否かわからないという場面では、相手方は、そのバイクをさらに転売してよいのか否か、判断ができません。

相手方からすれば、その売買が有効に確定するか否か、早期にはっきりさせたいところです。

そこで、民法は、制限行為能力者の相手方に、催告権という権利を与えています。

たとえば、未成年者の法律行為の相手方は、未成年者が成人となった後、当該本人に対し、1箇月以上の期間を定めて、その期間内に、取り消すのか確定させるのか、はっきりしなさい、と催告することができます

この場合に、その期間内に確答がなされない場合には、未成年者が未成年で会ったときに行ったその法律行為は追認したものとみなされます。

また、未成年者の相手方が、その法定代理人(親権者など)に対して、催告をした場合も同様です。期限内に確答がないときは、やはり、その法律行為が追認されたものとみなされます。

これによって、法律行為が有効になされた旨、確定します。

なお、制限行為能力者の相手方は、被保佐人や被補助人に対しても催告をすることができます。

ただ、この場合には、上記とは異なり、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなされます。

被保佐人・被補助人は、判断能力が十分でない場合があるので、被保佐人・被補助人に対する催告に対しては、確答がない場合に法律行為を確定させるのではなく、取り消したものとみなすこととしたのです。

事前確認が重要

民法は、上記のように、制限行為能力者の相手方について、一定の保護を図っていますが、ことビジネスの場面では、相手が単独で有効に法律行為を為しうるのか否かは事前に確認することが望まれます。

ある者が成人しているか否かは、戸籍などの提出を求めることで確認することが可能ですし、被後見人、被補助人、被保佐人であるか否かは、法務局にて登記されており、その登記がされていない場合には、本人らは、後見登記等がされていないことの証明書を得ることが可能です。

参照:東京法務局:登記されていないことの証明書の説明および請求方法

重要な契約などを行う場面で、制限行為能力の問題が窺われる場合には、こうした戸籍や後見等の登記がされていないことの証明書などを添付資料として求めることも、安全に取引を行う手段の一つと言えます。