ビジネス実務法務入門、今回のテーマは制限行為能力者についてです。前回の記事では、意思能力と行為能力について説明しました。

ここでいう行為能力というのは、単独で確定的に有効な法律行為を行う能力のことをいいます。制限行為能力者というのは、この行為能力が制限された者のことです。

制限行為能力者の4つの類型

民法は、制限行為能力者につき、4つの類型を定めています。具体的には、未成年者、成年被後見人、保佐人、補助人です。

以下、それぞれ見ていきましょう。適宜、次のページもご参照ください。

参照:成年後見制度(概要)

未成年者について

未成年者というのは、法律で定められる成人年齢に達していない者をいいます。

本記事を書いている2019年現在、未成年者は満20歳未満の者を指しますが、いわゆる成人年齢引き下げにより、2022年4月1日には、満18再未満の者が未成年者となります。

未成年者等の取消権について

<原則論>
未成年者は、原則として、単独で有効な法律行為をすることができません。

未成年者が法律行為を有効に行うためには、親権者などの法定代理人の同意が必要であり、同意なく、未成年者の行った法律行為は、原則として取り消し得ます(取消権がある。)。

なお、取消権を行使できるのは、未成年者とその法定代理人(親権者又は未成年後見人)です。

<例外的な場面>
民法は、未成年者が確定的に有効な法律行為を行いうるケースを例外的に定めています。

例外事由が存する場合、未成年者が行った行為につき、取り消しの対象にはなりません。民法が定める例外的な法律行為は、次の各行為です。

<取り消しえない例外的な行為>
①未成年者が単に権利を得たり、義務を免れたりする法律行為
②法定代理人が定めた目的に沿って処分を許した財産を、未成年者が当該目的の範囲内で処分する行為
③法定代理人が処分を許した財産(お小遣い等)を未成年者が処分する行為
④法定代理人が営業の許可を与えた場合に、未成年者が当該営業に関して行う取引行為

法定代理人の追認権について

法定代理人は、未成年者の法律行為を取り消す権限を有しますが、法定代理人は、取り消しをせずに、当該行為を追認する権限も有しています。

法定代理人の代理権について

法定代理には、未成年者の一定の法律行為を代理する権限を有しています。

法定代理人が未成年者を代理して行った契約等については、取消の対象にはなりません。

成年被後見人について

成年被後見人というのは、精神上の障害によって、事理弁識能力(判断能力)を欠く常況にある者で、家庭裁判所の審判を受けた者をいいます。

制度上、家庭裁判所の審判がなされる場合、成年被後見人の判断能力を補うために、成年後見人が選任されます。

成年後見人等の取消権について

成年被後見人は、日用品の購入や日常生活に関する行為を除いて、単独で確定的に有効な法律行為を行うことはできません。

成年被後見人が行った法律行為は、原則として取消の対象となります。成年被後見人から事前の同意を得ていた場合も同様です(この点は、未成年者の場合とは異なります。)。

例外的に、成年被後見人が行った契約等に関し、取消の対象とならないのは、日用品の購入や日常生活に関する行為に限られます。

取消権を行使できるのは、成年被後見人又は成年後見人です。

成年後見人の追認権について

成年後見人は、当該成年被後見人が行った法律行為につき、取消をせず、追認することもできます。

成年被後見人が行った行為については、成年被後見人に有利なものもありえるので、成年後見人に取消権の他、成年被後見人が行った行為を追認する権限も付与されているのです。

成年後見人は取り消すか、追認するか、選択する権限を有するということになります。

成年後見人の代理権について

成年後見人は、成年被後見人を代理する法定代理人です。

介護契約等、成年被後見人が単独で行い得ない契約につき、成年後見人が成年被後見人を代理してこれを行うことが制度の建て付けとなっています。

被保佐人について

被保佐人は、精神上の障害により事理弁識能力(判断能力)が著しく不十分となっている者で、家庭裁判所の審判を受けた者をいいます。

制度上、家庭裁判所が審判をする場合、被保佐人の判断能力を補うために、保佐人が選任されます。

保佐人等の取消権について

被保佐人は、民法が定める一定の法律行為(後述)又は裁判所が特に定めた法律行為につき、単独で確定的に有効な法律行為をすることができません。

被保佐人がこれらの行為を有効に行うには、事前に保佐人の同意が必要となり、同意なくこれらの行為が行われた場合、当該行為は、取消の対象となります。

取消権を行使できるのは、被保佐人又は保佐人です。

被保佐人が単独で確定的に有効にできないと定める法律行為として民法が直接定めるものには、次のようなものがあります(但し、当該行為が日常生活の範囲と言える場合にはその限りではありません。)。

<民法13条各号>
・元本を領収し、又は利用すること。
・借財又は保証をすること。
・不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
・訴訟行為をすること。
・贈与、和解又は仲裁合意をすること。
・相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
・贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
・新築、改築、増築又は大修繕をすること。
・3年を超える賃貸借をすること。

保佐人の追認権について

保佐人は、被保佐人が行った取り消し得る行為について、追認する権限も有します。

その趣旨は成年被後見人の場合と同様です。

保佐人の代理権について

家庭裁判所は、被保佐人又は保佐人等の請求によって、被保佐人のために、特定の法律行為について、保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。

当該審判により代理権を付与された保佐人は、家庭裁判所が定めた特定の行為につき、被保佐人を代理する権限を有します。

被補助人について

被補助人は、精神上の障害によって、事理弁識能力が不十分なもので、家庭裁判所の審判を受けた者をいいます。家庭裁判所が補助人を選任するには、本人の同意が必要です。

制度上、家庭裁判所の審判が行われる場合、被補助人の判断能力を補うために、補助人が選任されます。

補助人等の取消権について

家庭裁判所は、被補助人の申立て又は同意を得て、被補助人の行為能力を制限できます。

具体的には、上記民法13条各号に定める各行為の一部につき、家庭裁判所は、被補助人の行為能力を制限することができます。

被補助人は、家庭裁判所によって制限された行為については、補助人の同意なく、単独で確定的に有効な法律行為を行うことができません。

同意なくして行われた当該行為は取り消しの対象となります。

補助人の追認権について

補助人は、被補助人が行った取り消し得る行為について、追認する権限も有します。

その趣旨は成年被後見人の場合と同様です。

補助人の代理権について

家庭裁判所は、被補助人又は補助人等の請求によって、被補助人のために、特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。但し、被補助人の同意が必要です。

当該審判により代理権を付与された補助人は、家庭裁判所が定めた特定の行為につき、被補助人を代理する権限を有します。