ビジネス実務法務入門連載、今回のテーマは自然人と法人についてです。

この二つの共通点は、いずれも、私見の主体、すなわちビジネスにおける権利義務の主体となる能力(これを権利能力といいます。)を備えている点にあります。

自然人について

自然人というのは、要は、「人」のことを言います。

幼児、未成年者、男性、女性、高齢者いずれも自然人です。サラリーマンも、個人事業主も、専業主婦も皆、自然人です。

そして、自然人は、上記の通り、権利義務の主体となる能力(権利能力)を有しています。

その意味は、自然人は、契約の当事者となったり、ある財産の所有者となったりすることができる、と言う意味です。

もっとも、人が権利義務の主体となりうる期間は、原則として「出生」から「死亡」までです。

したがって、胎児は原則として権利義務の主体から外れますし、既にお亡くなりになった方は権利義務の主体にはなりません。

出生と死亡について

学問としての民法においては、次に「出生」とは?「死亡」とは?という点が論点として生じます。

基本的な考え方だけ押さえておくと、伝統的な通説では次のように理解されています。

・出生とは、胎児の体の全部が母体から露出することをいう。

・死亡とは、人の心臓が停止することをいう。

この問題をビジネスで意識する必要はまずありませんが、代表的な論点の一つなので、一応記載しておきます。

AIについて

また、近時は、AIが権利義務の主体となれるか、が議論されることがあります。

AIが人間並みの知能をつけ、自らの判断で契約締結行為をするに至った際に、AIに直接、契約の効果を帰属させられるか、という問題です。

現行の制度を前提とすれば、結論としては否定です。現在の法律では、AIは権利義務の主体とはなれません。

AIが自らの判断で契約を行った場合、契約の効果を帰属させ得るとすれば、それはAIを使用する「自然人」や「法人」ということになります。

なお、「法人」を権利義務の主体とできるのと同様、AIを権利義務の主体とする法制度を策定することは、立法技術上は可能です。

そのため、これを是とするのか非とするのかの議論次第ということになります。

法人について

自然人の他に、権利義務の主体となれるのが、「法人」です。

ビジネスの場面における法人の典型例は、「株式会社」ですが、それ以外にもたとえばNPO法人やマンションの管理組合法人も「法人」です。財団法人も「法人」です。

法人は権利義務の主体となれる

法人は、自らが権利義務の主体として、取引相手と契約をしたり、財産の所有者になったりすることができます。

別の言い方をすれば、法人は「権利能力」を有するということもできます。

たとえば、自動車保険の契約は、保険会社という「法人」が契約の主体になっています。

また、自動車の車検証には、車の所有者として、株式会社名が記載されることがあります。

法人が、自らの名前で、権利義務の主体となっているわけです。

権利能力なき社団・権利能力なき財団

法人と似て非なる者に、「権利能力なき社団」、「権利能力なき財団」という組織・団体があります。

権利能力なき団体の意義

「権利能力なき社団」は社団としての実質を備えているが、法人格を取得していないものをいいます。

「権利能力なき財団」というのは、財団としての実質を備えているが、やはり法人格を備えていないものをいいます。

「権利能力なき」というのは、「権利義務の主体となれない」という意味です。

参照外部サイトリンク:権利能力なき社団とは(法律BLOGローテキスト)

マンション管理組合を例に

ここで理解を深めるために、マンションの管理の主体について見てみましょう。

マンションの管理組合には、法人格を取得したマンション管理組合法人と、法人格を取得していない単なる管理組合とがあります。そして、管理組合の多くは、権利能力なき社団と評価されます。

マンション管理組合法人も、単なるマンションの管理組合もその実質は異なりません。

しかし、両者の間には、法人格の有無(≒権利能力の有無)という点で差があるのです。

その結果として、マンション管理組合法人は、不動産登記制度上、自ら不動産の所有名義人となれるのに対し、単なる管理組合は、所有名義人となれない等の差が生じます。

登記制度上、前者を権利義務の主体として扱うことができるのに対し、後者を権利義務の主体として扱うことはできないのです。