ビジネス実務法務入門 今回のテーマは、売買契約における商品の特定・品質・数量の指定についてです。

売買契約というのは、売主が目的物の財産権を買主に移転し、買主がこれに対してその代金を支払うことを内容とする契約です。動産・不動産,新品・中古品、特定物・種類物問わず、いずれも売買契約の対象となり得ます。

この売買契約を契約書に起こす際、留意していただきたいのが商品の特定や品質・数量の指定が十分にできているかという点です。

売買目的物の特定

売買契約を締結する際にまず重要となるのは、売買の目的物が特定できているかどうかです。売買契約に際しては、どの商品・どのような商品を売買するのかを明確にしておくことが重要となります。

たとえば、「パソコン一台を10万円で売買する」といった契約書を作成しても、どのパソコンを売るのか、あるいはどういったパソコンを売るのか、この契約書の内容からははっきりしません。

新品のパソコンにつき、売買契約を締結する場合には、メーカー名や品番等において、商品を具体的に特定することを要します。

品質の特定

また、売買契約の種類によっては、品質の特定が重要な意味を持つ場合があります。

たとえば、「コシヒカリ新米1000Kgを売買する」という契約をする際に、その品質について何ら定められていなかった場合を想定してみます。

この契約書においては品種(コシヒカリ)や収穫時期(新米)は特定されているものの、それ以上、品質について定めがありません。

当然、コシヒカリの新米の中にも、質の高いものから、質の悪いものまであるはずです。

それにもかかわらず、売主から引き渡されたコシヒカリの品質が悪かった場合、買主はこれに納得せず、結局当事者間でトラブルが発生することにもなりかねません。

したがって、契約の種類によっては、その品質まで、一義的かつ明確に契約書に定めておくことがトラブル回避のためには重要となります。

<もう一歩前へ>
<民法の規定>
民法は、債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならないと定めています。この規定を上記コシヒカリ新米の例に適用すれば、売主は民法に基づき、中等の品質のものを買主に引き渡さなければならないことになります。

<品質の定め方>
契約で品質を定める場合、いくつかの方法が有ります。代表的な方法は次の通りです

見本売買  売主が見本(サンプル)を提示して、その見本と同等の品質のものを売買の対象とする方法
仕様書売買 売買契約において、商品の使用を仕様書に詳細に定めておく方法
規格品売買 契約において、対象となる商品の規格を指定する方法。たとえば、工業製品に関し、JISやJASなどにおける規格番号が利用される。
銘柄売買 ブランド・商標で商品の具体的に特定できる場合に、ブランド・商標を特定することによって品質を指定する方法
標準品売買 あらかじめ基準となるべき標準品を設定しておく方法

数量の特定

また、売買の目的物によっては、商品の数量を個数で特定できないこともあります。

液体や気体(ガス等)がその例ですが、上記に挙げた米も数量で個数を特定するのが現実的でない商品といえます。

このような商品については、重量や容積等を定めて数量を指定することになります。

もう一歩前へ
重量や容積等によって数量を指定する場合、売り主側から見て、まったく数値ピッタリの量の商品を提供することが極めて難しい、あるいは現実的に不可能な場合が往々にして生じます。

たとえば、米を購入する売買につき、単位をトンとして数量を定めた場合、売主が提供するコメの量を0.0001㎎単位まで指定の数量に適合させるのは極めて難しいといえます。

では、このような不都合を避けるには、どのような手段が考えられるでしょうか。

手段の一つとしては、商品の数量の過不足の許容(アローワンス)の範囲を契約書に規定しておくという方法が考えられます。

たとえば、指定の数量から「上下○%の範囲内の数量の商品の納入は、契約の本旨に従ったものとみなす」といった条項を契約書に予め定めておく方法です。