商法は、民法に定める売買に関する規定の特則として、商事売買に関する規定を置いています。

現実の商人間の売買に関しては、契約で詳細が定められることが少なくありませんが、個別に契約に規定がない場合には、商法の規定が適用され得ます。

そこで、商法が、商事売買につき、いかなる規定を置いているのか、確認しておきましょう。

1 商法に置かれた5つの規定

商法は、商事売買に関する規定として次の4つに関する規定(全5条)を置いています。
①売主の供託権・自助売却権(524条)
②定期売買の履行遅滞による解除(525条)
③買主の目的物検査・通知義務(526条)
④買主の目的物保管・供託義務(527条、528条)
  

①売主の供託権・自助売却権(商法524条)

売買において、買主がいつまでも商品を受け取らない場合、売主が商品の引渡義務を履行することができません。商法524条は、この不都合を避けるため、売主に供託、競売(自助売却)の権利を認めています。

具体的には、商人間の売買においては,買主がその目的物の受領を拒み,または,これを受領することができないときは,売主は,その物を供託し,または相当の期間を定めて催告をした後に競売に付する権利が認められています。

ここでいう「相当の期間を定めた催告」については、目的物に損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある場合には、省略することが可能です。

なお、民法においては、競売に付することができるのは、目的物が供託に適しない等に限定されますが、商法では、このような限定はありません。

売主は、目的物を供託し,または競売に付したときは,遅滞なく,買主に対してその旨の通知を発することが必要です。

また,競売をした売主はその代価を供託しなければなりませんが、代金債権の弁済期が到来しているのであれば,売主は、代価の全部または一部を代金に充当することができます。

②定期売買の履行遅滞による解除(商法525条)

商品によっては、ある特定の時期までに商品が納入されなければ、市場価値がないものがあります。

たとえばクリスマスケーキなどがその例で、クリスマスケーキの小売業者にとっては、クリスマスまでにケーキを仕入れられなければ、クリスマスケーキの価値はありません。

このような売買の性質(又は意思表示)によって、特定の日時又は一定の期間内に目的物の引き渡しを受けなければ、契約の目的を達することができないような売買契約を定期売買(又は確定期売買)といいます。

この定期売買につき、商法525条は、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,直ちにその履行の請求をした場合を除き契約の解除をしたものとみなす旨、規定しています。

上記例ではクリスマスの時期をすぎてなお、ケーキの納入を小売業者が請求しなかった場合、クリスマスケーキを仕入れる契約は解除したものとみなされます。

なお、民法では、定期売買につき、催告までは不要であるものの、契約を解除するには解除の意思表示を要します。

これに対して、商法525条は、相手方の履行を請求するか,解除するかの選択の余地を残しつつ、請求しなければ、解除の意思表示がなくても解除したこととみなす、という仕組みを設け、法律関係の早期安定を企図するものです。

③買主の目的物検査・通知義務(商法526条)

次は、買主の目的物検査・通知義務についてです。契約不適合責任の追及権の失権にもつながる規定であり、重要な意義を有しています。

まず、商人間の売買においては,買主は,商品を受領したときは、遅滞なく,受領した商品を検査しなければなりません。

この検査によって、買主が、商品の種類,品質または数量に関し、契約内容に適合しないことを発見したときは,買主は、直ちに売主に対してその旨の通知を発する必要があります。

この通知を怠ると,買主は、売主に対して、契約の不適合を理由とする履行の追完や、代金の減額、損害賠償の請求、契約の解除をすることができなくなります(失権効)

また、商品の種類または品質に関して、契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において,買主が6か月以内にその不適合を発見したときも、買主は直ちに通知をすることを要します。

6か月以内に契約内容の不適合があることを発見して通知することができなかったときは,買主は、やはり、売主に対して契約内容への不適合に対する上記の各権利を失権します。

ただし、売主が、売買の目的物が種類,品質または数量に関し、契約の内容の不適合を知っていた(悪意)の場合には、もはや当該売主を保護する必要はありませんので、買主には上記検査・通知義務はなく、失権効も生じません。

④買主の目的物保管・供託義務(商法527条、528条)

最後に、契約解除時における目的物の保管・供託義務について説明します。なお、以下の説明は、買主及び売主の営業所が同一市町村の区域内に存する場合には妥当しません。

まず、商人間の売買において,商品を受領した買主が契約を解除した場合、買主は、売主の費用をもって売買の目的物を保管し,または供託する義務を負います。

また、目的物について滅失または損傷のおそれかあるときには、買主は、上記に代えて、裁判所の許可を得て競売に付し,かつ、その代価を保管しまたは供託する必要があります。

この競売に付した場合、買主は、遅滞なく,売主に対してその旨の通知を発しなければなりません。

なお、このような買主の義務は,誤った商品が納品された場合や・過量の商品が納品された場合にも、準用されます。

これらの買主の解除時における商品の保管義務等は、民法には規定がありません。契約解除時における売主の利益の保護を図るため、商法が特に買主に対して課した義務です。