ビジネス実務法務入門連載 今日のテーマは、契約自由の原則についてです。
民法の基本原則の一つに、契約自由の原則というものがあります。自由主義経済社会において、もっとも尊重されるべき原則の一つです。
従前の民法典には規定は無かったものの、改正民法では、次のように明文化されています。
<第1項>
何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
<第2項>
契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
契約自由の原則の3つの内容
契約自由の原則は、次の3つの内容を含むものと理解されています。
①契約を締結するか否かの自由
②誰と契約するかの自由
③契約の内容をどのような内容とするのかの自由
なお、契約自由の原則の一つの内容として、④契約方式の自由を挙げる見解もあります。これは、契約を書面でなすか、口頭でなすか等、契約の方式は当事者の自由に決めることができる、という原則を指します。
<参照条文>民法第522条 第2項
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
① 契約を締結するか否かの自由
契約自由の原則の一つ目は、契約を締結するか否かの自由です(締結の自由)。これは、そもそも契約をするのかしないのかが各人の自由な判断にゆだねられることを言います。
実際のビジネスの場面では、契約を実質上、拒否できる場面ではないということも往々にしてありますが、建前としては、契約をしたくなければしない、という自由が契約当事者に与えられている訳です。
なお、勘の鋭い方はお気づきかもしれませんが、受信設備を設置した者にNHKとの間の契約を義務付ける放送法64条は、契約を締結するか否かの自由の重大な例外と位置付けることが可能です。
② 誰と契約をするのかの自由
契約自由の原則の二つ目の内容は、誰と契約をするのかの自由です(相手方選択の自由)。締結相手が複数ある場合に誰と契約をするのかは、当事者の自由に委ねられます。
同一・同種の商品・サービスを提供する企業が複数ある場合、相手方は、自らが契約を望む企業を選択することができる、というのが相手方選択の自由です。
ただ、企業複数のある商品・サービスの提供がある企業において独占されている場合、相手方選択の自由は機能しません。
そもそも選択すべき取引相手が一つしかないからです。
③ 契約内容の自由
契約自由の原則の3つめの内容が契約内容の自由です。
当事者が誰かと契約をするに際して、契約の内容をどのようにするかは、当該契約当事者間において決めることができるのが原則です。
家電製品を購入する際、値引き交渉等を行うことがあるかもしれませんが、この値引き交渉は、商品の価格を当事者間の合意により自由に決められることを前提としています。
もっとも、契約内容の自由は、対等当事者間では機能し得るものの、力関係に大きな差がある場合には、機能しにくいと言われています。
たとえば、銀行取引を見るに、一般の預金者が、銀行が準備した約款等に記載の取引条件を交渉によって変更させることは通常できません。
ここでは、預金取引の内容を当事者間の交渉によって、自由に決めるということは想定されていないといえます。
<附合契約とは>
契約自由の原則(特に③契約内容の自由)に関連して、押さえておくべき重要な契約類型の一つが附合契約ないし約款契約と呼ばれる契約です。
附合契約とは、銀行の預金契約等、その内容が予め約款等で定められており、契約の一方当事者がそれに従う(附合する)しかないような実質を有する契約をいいます。
<定型約款>
また、改正民法は、従前規定のなかった「定型約款」という項目を新たに設けています。
これは、定型取引の意義や、定型約款に基づく契約についてのみなし合意、定型約款の表示義務、定型約款の変更の条件等を整備したものです。
具体的には、民法548条の2から同4までに規定が置かれています。
契約の自由と企業活動
上記の通り、民法においては、契約の自由が原則が定められています。
この契約の自由は、企業にとっての競争力の源泉です。たとえば、事実上の価格決定権(価格決定の自由(契約内容の自由の一つ))があるか否かは、利益確保の有無や程度に直結します。
いかに自由に契約モデルを構築できるか、取引相手側の自由に対して、自らの自由をどの程度貫ける状況にあるかが、企業の利益確保の可否や程度を左右するわけです。
実際のビジネスの場面では、強者に対して、弱者の自由が機能しない場面は多々あります。誤解を恐れずに言えば、企業の競争力を高めることは、自らの契約の自由の確保・強化に努めることと同義ともいえます。