企業が事業活動を営むに際して、他の事業者との競争は不可避です。

また、自由競争の範囲内で競争が行われる限り、その競争は社会・経済の発展に寄与するものであって、咎められるべきものではありません。

ところが、企業間における競争においては、時に、自由競争の範疇を超えて違法・不正な手段が取られることがあります。

たとえば、他社の有名商品を模造して販売する等の行為や、虚偽の事実を流布するなどして他社の信用を貶めるような手段がその例です。

当然のことながら、こうした違法・不正な手段による競争は、健全な競争を阻害する行為であって、許容されるべきものではありません。

そこで、登場するのが不正競争防止法です。

同法は、経済の健全な発展に寄与することを目的に、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じています。

以下、不正競争防止法の概略・アウトラインを確認します。

不正競争行為について

以下、まず、不正競争防止法が定める不正競争行為について概要を確認します。

同法は不正競争行為を限定列挙

まず不正競争防止法は、不正競争行為を限定列挙して定めています。

不正な手段と思しき手段を包括的・一般的に禁止するのではなく、禁止される不正競争行為を個別的・限定的に定めているのです。

したがって、不正競争と思しき手段であっても、不正競争防止法が定める禁止行為(不正競争行為)に該当しなければ、不正競争防止法の適用はありません。

そのため、不正競争防止法を理解するにあたっては、同法がいかなる行為を禁止しているのかを知ることが重要となります。

同法が禁止している不正競争行為は、同法2条各号に規定されています。大ざっぱですが、概要だけ確認しておくと、以下の通りとなります。

同法に列挙された不正競争行為(同法2条各号)

① 周知な商品等の表示を使用して主体を混同させる行為(1号)
広く認識された商品等の表示を使用して、ある商品等の主体を混同させるような行為を言います。

② 著名な商品等の表示を使用する行為(2号)
著名な商品等の表示と同一ないし類似の表示を用いる行為です。

たとえば、「ポカリスエット」と類似する「ボカリスエット」という名称を清涼飲料水の販売に際して用いる等の行為が該当します。

③ 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為(3号)
商品の形態・外観等を模倣する行為です。高級ブランドの模造品販売は、この類型に該当します。

④ 営業秘密の取得・使用等に関する不正行為(4号~10号)
企業の営業秘密を不正な手段で取得したり、不正手段を介して営業秘密が取得されたことにつき、悪意又は重大な過失の下で、当該営業秘密を使用したりする行為です。

⑤ 技術的制限手段を無効化する装置等の提供行為(11、12号)
営業で使用される技術的制限手段(コピー禁止機能)等を無効化する装置やプログラムを提供する行為です。

⑥ 他人のドメイン名に関する不正行為(13号)
図利加害目的で、他人のドメインと同一・類似のドメインを取得・保有、使用する行為です。

⑦ 原産地・品質等を誤認させる等の行為(14号)
商品や役務の原産地・品質等を誤認させる行為です。

たとえば、実際には外国産であるにもかかわらず、国内産などと偽って、商品を販売する行為などが該当します。

⑧ 他人の営業上の信用を毀損する虚偽の事実を告知等する行為(15号)
競争相手に関し、真実と異なる虚偽の事実を第三者に告知したり、広く流布したりすることによって、その競争相手の営業上の信用を毀損する行為を言います。

たとえば、食品会社A社が、真実に反するにもかかわらず、「B社は賞味期限切れの原材料を使用して加工食品を作っているようだ」等と虚偽の事実を流布する場合などが上記行為に該当します。

⑨ 代理人等が商標を正当な理由なく使用する行為(16号)
パリ条約の同盟国等における商標に関する権利を有する者の代理人等が、正当な理由なく、当該商標と同一・類似の商標を使用等する行為です。

不正競争行為に該当する場合

上記は、いかなる行為が不正競争行為に該当するか、という問題です。

次に不正競争行為がなされた場合にどのような救済手段があるか、という点をアウトラインとして見ておきましょう。

具体的には、①差止請求、②損害賠償請求、③信用回復措置請求の3つを確認しておきます。

差止請求

同法が認める侵害排除措置の一つが差止請求(3条1項)です。

差止請求というのは、不正競争行為によって営業上の利益が侵害され、または侵害される恐れのある者が、不正競争行為を行ったものに対して、その侵害の停止・予防を求める請求を言います。

また、不正競争防止法は、営業上の利益を侵害され、または侵害される恐れのある者が差止請求をするに際しては、侵害行為を組成し、または侵害行為によって生じた物の廃棄等を請求することができると定めています(3条2項)。

この請求を「廃棄請求」といいます。

損害賠償請求

また、不正競争防止法は、損害賠償請求の立証の負担軽減を図っています。

民法の規定に従えば、被害者による損害賠償請求が認められるためには、被害者が、因果関係と損害額まで立証することを要します。

しかし、この立証は必ずしも容易ではありません。営業上の利益が損なわれたような場合は殊更です。実質的な被害回復を得ることは立証上非常に困難が伴います。

そこで、不正競争防止法は、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずると定めた上で(4条)、一定の推定規定を設け、被侵害者の立証の緩和を図っています(同5条)。

被侵害者の立証責任の軽減によって、被害救済が容易化されることが期待されているといえます。

信用回復措置請求

さらに、不正競争防止法は、不正競争行為によって、営業上の信用が害された場合に、被侵害者が侵害者に対して、信用を回復するのに必要な措置を請求しうると定めています。

営業上の信用が侵害された被侵害者は、上記に述べた損害賠償請求とともに、あるいは同請求に代えて、自らの信用を回復するために、この信用回復措置請求を侵害者に対して行い得ます。

信用回復措置の例としては、新聞への謝罪広告の掲載や、取引先への謝罪文の配布などがあげられます。