建物建築やリフォーム工事に関しては、建物完成後にトラブルが発生することもあれば、工事途中にトラブルが生じることもあります。
そして、工事途中のトラブルに起因して、工事が中途終了した場合、請負業者と施主との間で、出来高を巡るトラブルが生じえます。
たとえば、工事に関し、請負人が工事に先立って請負代金を受け取っていなかったのであれば、工事の中途終了後に、請負業者が施主に対して、出来高分(出来高割合)について請負代金の請求をする、というのがその例です。
他方、施主側が既に請負代金全額を支払っていたにもかかわらず、工事が途中で終了した場合には、請負代金全額を受け取るのはおかしい、として、請負代金の一部の返還を求める、ということも考えられます。
では、そもそも工事が途中終了した場合に、請負人(施工業者)は、その出来高に応じた請負代金の支払いを施主に求めることは、法律上認められるのでしょうか。
最高裁昭和56年2月17日判決
上記の問題に関しては、有名な最高裁判決があり、実務も同判決に従って動いています。同判決において、規範となる判旨部分は次の通りです(但し、次の判旨中、(1)(2)及び①~③は、本記事の執筆者において加筆。)
建物その他土地の工作物の工事請負契約につき、(1)工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において、(2)①工事内容が可分であり、しかも②当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、③特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解するのが相当である
おおざっぱに言えば、同判決は、請負人側の工事等に問題があっても、出来形部分(既施工部分)が可分かつ施主にとって有益であれば、施主は、出来形部分については契約を解除できず、出来形部分については、請負代金(出来高報酬を支払わなければならない、とする判決です。
解除原因に関する判例解釈(上記判旨(1)の部分について)
上記判決は、請負人に「債務不履行」が有った場合について判断したものです。
ただ、可分かつ有益な出来形につき請負代金を請求できるという判例の法理が妥当するのは、請負人に債務不履行がある場合に限られません。
当該判例法理は、両者に帰責事由なく履行不能状態(やむを得ず、工事が不可能となった場合)場合や、民法641条によって契約が解除されたような場合にも妥当すると解されています。
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
一部解除の要件に関する判例解釈(上記判旨(2)の部分について)
上記のとおり、最高裁は、①工事内容が可分であり、しかも②当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、原則として、出来形部分について解除を認めず、請負人側の出来高に係る報酬請求を認めています。
①可分性について
上記判決の言う①可分性については、種々の解釈が有りえます。
①可分か否かは、報酬の算定が可能か否かによって判断するとの見解もあれば、物理的・技術的な観点を主眼に可分か否かを判断する見解もありえます。
②有益性について
有責性についても種々の考え方が有り得ますが、既施工部分のみで独自の利用価値が有るか否か、既施工部分につき継続工事が可能か否か、といった観点から判断するのが一般的です。
私見を交えておおざっぱに言えば、請負人が行った工事の範囲が特定でき、かつ、当該出来形につき継続工事が可能な場合や、当該出来形それ自体に独自の価値を肯定できれば、上記の可分性・有益性は原則的に肯定されているようにも思われます。
参考情報
ここで、参考情報として、現行法における①中途解約事由と出来高請求等につき簡単に整理するとともに、②新民法の条文を紹介しておきます。
②中途解約と出来高請求等の整理
<参考情報①:中途解約と出来高請求等の整理>
※注文者側に帰責事由があって、履行不能に至った場合には、請負人の報酬請求権は、出来高に限定されず、全額存続すると解されています(民法536条2項)。ただし、請負人側が免れた支出については報酬請求から減額調整されます。
②新民法の条文
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
※ 上記の様な判例法理を条文化しものと説明されています。
瑕疵(出来形の不具合・契約不適合)と一部解除
出来高報酬に関する最高裁法理などは上記に紹介した通りですが、さらに工事が中途終了した場合に紛争を紛糾させるのが既施工部分に瑕疵(不具合・契約不適合)がある場合です。反対に、瑕疵の有無を巡るトラブルに起因して工事が中途終了し、出来高が問題となることもあります。
この点、単に瑕疵と言っても、その中には重大な瑕疵といえるものもあれば、そうとまでは言えない瑕疵があります。そこで、出来形に瑕疵がある場合においても、瑕疵の程度に応じて法的処理を分けて考えるのが有益です。
瑕疵の程度によって区別して考える
そして、既施工部分に重大な瑕疵がある場合には、施主側から、その瑕疵の重大性ゆえに上記②有益性がないとの主張をなしえます。
この主張が認められる場合、請負人は、有益性が否定された出来形に対応する出来高報酬を請求することができません。
他方、瑕疵が重大とまでいえない場合(有益性が否定されない場合)には、施主側には出来型にかかる報酬請求権が認められます。
ただ、この場合においても、施主側から、修補請求に代わる損害賠償請求権をもって相殺する等の主張がなされうる結果、出来高報酬は減額され得ます。
出来高をめぐる裁判等においては、上記のような可分性・有益性の有無の問題に瑕疵の問題が絡み合うことが少なくなく、当該瑕疵の評価などを巡り、争点が往々にして深化していきます。
裁判例の紹介
上記のような出来形に瑕疵がある場合における可分性・有益性の判断過程や認定については、平成17年10月25日大阪地方裁判所判決及び平成26年12月24日東京地方裁判所判決が参考となります。そこで、最後にこの二つの判決の該当部分を紹介しておきます。
【平成17年10月25日大阪地方裁判所判決】
上記最高裁判決の引用の上、瑕疵ないし建築基準法違反などを根拠に既施工部分の有益性を否定した判決。
本件建物に加えられた補強や本件工事が行われた後の本件建物の構造上の安全性等については上記1(2)イで認定のとおりであり、本件工事が行われた後の本件建物は構造上の安全性に欠け、建築基準法所定の構造強度を大きく下回る危険な建物となっており、全体としても杜撰な工事となっているのであって、本件建物に加えられた補強も含めて、既施工部分の給付に関して原告Aに利益があるということはできない
(なお、被告は一階部分に基礎を新設していると思われるが、それ自体不十分なものであり、そのまま利用することはできず、これを補修して利用するのにはかえって費用を要すると思われるから、原告Aに利益があるということはできない。また、一階床部分についても、被告が設置した基礎をそのまま利用することができないのであるから、一階床部分もそのまま利用することは困難であり、原告Aに利益があるということはできない)。
【平成26年12月24日東京地方裁判所判決】
上記最高裁を引用の上、基礎部分及び杭部分を分けて検討。
まず、基礎部分の工事については、前記一(1)で判示したとおり、原告らがこの給付を受けるについて利益を有しないから、解除の効力が及ぶ(本件約款三三条(1)に基づき原告らが引き受けるべき出来形と評価することもできない。)。
よって、被告は、原告らに対し、解除に伴う原状回復義務に基づき、基礎部分を解体する義務を負う。
イ 杭部分についての検討
他方、杭部分の工事についてまで解除の効力が及ぶかについて検討するに、基礎部分を解体した後、既存の杭の上に新たな基礎を施工することは可能であるから、基礎部分の工事と杭部分の工事とは可分であり、かつ、原告らは、杭部分の工事の給付を受けるについて利益を有するといえる。
原告らには、本件建物を改めて建築する意思はないかもしれず、その場合には、杭部分が本件土地に残っても意味がないが、注文者側の主観的事情によって、給付を受ける利益があるか否かの判断が変わると解するのは相当でない。
基礎部分と杭とは、杭の上端部分で一体となっており、基礎を解体する場合に杭頭を損傷してしまう可能性がないとはいえない。
しかしながら、上記一体化した部分について慎重に解体することによって、杭を損傷しないようにすることは可能であるから、上記のような損傷の可能性があることをもって、直ちに、基礎部分の工事と杭部分の工事とは不可分であるとか、杭部分の給付を受けるについて利益を有しないということはできない。杭を全て抜くのは相当に経済的損失が大きいことを考慮すれば、上記のような損傷の可能性のみを理由に被告に対し杭を抜くことを強いるのは妥当でない。
よって、原告らは、杭部分の工事についてまで契約を解除することはできない。