区分所有建物たるマンションに発生する問題の一つに、「駐車場専用使用権分譲」と呼ばれる問題が有ります。

これは、分譲業者が、分譲に際して、敷地持分付きの区分所有建物の本体代金とは別に、敷地上の駐車場利用権を別途分譲することによって発生する問題です。

駐車場専用使用権分譲の典型例は、次のようなものです。

<典型例>
分譲業者Aが、Bに区分所有建物を敷地持分付で、2000万円で分譲した。それとは別に、分譲業者Aが駐車場の利用権をBに200万円で分譲した。マンション本体・敷地の分譲と利用権の分譲と出、その合計金額は2200万円となった。


駐車場専用使用権分譲の問題の所在

駐車場専用使用権分譲の問題の所在は、端的に言えば、利益の二重取りです。

敷地持分の譲渡

上記駐車場専用使用権分譲の問題の所在を理解する上でのポイントの一つは、分譲される区分所有建物の本体に敷地持分が付いているという点です。

マンションの購入者は、建物部分だけを買っても、土地の利用権がなくては、建物を保持できません。

そこで、マンションの購入者は、建物本体と併せて、土地利用権となる敷地持分を購入するのが一般的です。

上記例では、本体購入価格2000万円には、本来的に「土地の持分」(敷地の持分)が含まれているということになります。

その結果、マンションの敷地のどの部分、どの範囲についても、分譲を受けた区分所有者は持分を有する、ということになります。

利用権の譲渡・付与

ところが、駐車場専用使用権分譲においては、分譲業者が、駐車区画となる土地の一部につき、他の区分所有者の了解をとることなく、区分所有者に駐車場利用権を譲渡(ないし設定)しています。

上記のとおり、一旦敷地付きで分譲を行えば、分譲を受けた区分所有者は当該駐車区画についても持分を有することになります。

その区分所有者の持分に関わらず、駐車場専用使用権分譲においては、分譲業者が別途、敷地につき「利用権」を設定して、対価を得ている訳です。

先の例で言えば、分譲したはずの敷地につき、駐車場利用権という名目で200万円を受領しているということになります。

この点が、駐車場専用使用権分譲が、敷地持分の譲渡の対価と利用権の対価との二重取りするものである、との批判を受けるゆえんです。

敷地利用権の対価を分譲業者が受領することの可否

上記駐車場専用使用権分譲の問題に関し、従前、学説においては、実質的に敷地の二重譲渡であるとか、駐車場の敷地利用権の対価は、マンションの管理組合が取得すべきである、などという見解が有力でした。

最高裁の結論

しかし、最高裁平成10年10月22日判決は、管理組合が分譲業者に対して、駐車場専用使用権分譲代金の支払いを求めた事案において、次の判断を示しました。

<最高裁判示>
売買契約書の記載によれば、分譲業者である上告人は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意にしたがって上告人(分譲業者)に帰属するものというべきである。



この最高裁の判断は、判断は、駐車場専用使用権分譲の有効性を肯定した上で、分譲業者に駐車場敷地利用権の分譲代金が帰属するとの内容の判断です。

受任者説

この事案において、管理組合側は、駐車場専用使用権の分譲を含め、包括的に管理組合ないし全区分所有全員の受任者たる地位にあるというべきではないか、そうだとすれば、管理組合に、駐車場利用権の対価が帰属するはずである、という主張(受任者説)を展開しています。

この受任者説に関して、上記最高裁や同判決に付された遠藤光男裁判官の補足意見は、次のように述べています。

<最高裁の判示>
具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては、分譲業者が専用使用権の分譲も含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠をかくものと言わなければならない。

<遠藤光男裁判官の補足意見>
立法論や行政指導であれば各別、基本的に契約自由の原則が妥当する現行法の下における解釈論としては、おのずから限界があるものといわざるをえない。


上記最高裁判決により、現状、管理組合が駐車場利用権の分譲対価を分譲業者に請求することはできない状況にあります。

ただ、この結論が、妥当性を欠くという点については、多くの支持もあるところです。

最高裁の結論を素直に受け入れてよいのか、受任者説の妥当性等を含め、議論を継続することが必要と思われます。