小学生から中学生にかけて、自転車は未成年者の主要な移動手段の一つになります。

また、小学生から中学生の時期というのは、子どもによっては、自転車は遊び道具にもなり得ます。

私自身、小学生のころには、友人と自転車で競走等をして楽しんでいました。

こうした未成年者の自転車の走行は、時に重大な事故を招きます。特に、公道等の人や車の出入りが激しいところで遊び道具として自転車を利用しているような場合には重大な交通事故を招きかねません。

少し前のニュースではありますが、未成年者が運転する自転車と歩行者とがぶつかって、歩行者がお亡くなりになった、というニュースもありました。

未成年者が自転車に乗って、こうした事故を起こした場合、未成年者や親に事故の責任が問われ得ます。

未成年者による交通事故と未成年者の不法行為責任

自動車による事故については、一般に不法行為責任という責任が問題となります。

未成年者の不法行為責任(原則)

不法行為責任と言うのは、故意又は過失によって、第三者に損害を与えた場合に、加害者がその損害を賠償しなければならない、という責任です。

わざと事故を起こした場合だけでなく、不注意で事故を起こした場合にも、「過失」有りとしてその責任が問われるのです。

民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

未成年者が自転車を走行中、自転車の運転者に通常期待される注意を払わず、不注意で事故を起こしてしまった場合、未成年者本人は、原則として、被害者の損害を賠償する責任を負うことになります。

例外として責任を免れる場合

もっとも、民法709条記載の条件を満たす場合でも、未成年者が責任を免れることがあります。

それは、未成年者が、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」(これを「責任能力」といいます)を備えていなかった場合です(民法712条)。

民法712条
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

この規定に言う「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」(責任能力)というのは、自己の行為が法律上許されるか否かを判断する能力(違法性の認識能力)を言います。

自転車事故に引き直していえば、交通ルールを守らずに自転車を運転して人に怪我をさせることは許されず、法律的な責任を負う、と理解・判断できる能力です。

この責任能力は、およそ小学校高学年から中学生にかけて備わるといわれています(本人の資質や学習・教育環境によって変わりうる。)。

たとえば、8歳から10歳の子供が自転車事故を起こした場合、多くのケースで未成年者の責任能力は否定されていますし、また、12歳の子の責任能力についても、裁判所は否定的な傾向(未成年者の不法行為責任を否定する傾向)を示しています。

他方、13歳を超えていた事案においては、裁判所は未成年者の責任能力につき、肯定的な判断をする傾向(未成年者の不法行為責任を認める傾向)にあります。

親権者の責任

未成年者が起こしてしまった事故については親権者もその責任を問われ得ます。

親の責任を問う法律構成(根拠)は、未成年者に責任能力が有るか否かによって、大きく変わりますので、以下、責任能力が否定される場合、肯定される場合に分けて順に説明します。

未成年者の責任能力が否定される場合

上記民法712条の適用により、未成年者の責任能力が否定された場合、被害者は未成年者に賠償せよと請求することはできません。

しかし、それだけで終わってしまっては被害者の救済に欠けます。

そこで、この点に関し、民法714条1項は次のように規定して、責任能力のない未成年者が起こした事故につき、親権者たる親が原則として賠償責任を負うと定めました。

民法714条第1項
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。


民法714条第1項規定のとおり、責任能力のない未成年者が起こした自転車事故については、親権者が責任を負う、というのが条文の原則的な構造になっています。

この点につき、条文の規定上は、親権者が、未成年者を監督する義務を怠らなかったことや、当該義務違反によって事故が生じなかったと証明できた場合には、例外的に、親権者も責任を免れるとされています(民法714条1項但書き)。

しかし、民法714条1項但書きの事情を立証・証明する責任は、親権者側にあります。そして、実務上あるいは学説の大勢においても、民法714条1項但書きが規定する例外的な事情の立証・証明は極めて困難とされています。

そのため責任能力のない未成年者が不法行為を行い、第三者に損害を与えた場合、親は十中八九、法的責任を負担することになります。

未成年者の責任能力が肯定される場合

他方、未成年者がたとえば16歳であり、責任能力が肯定された場合、未成年者本人が損害賠償をする義務を負います。

この場合、未成年者が法的責任を負う訳ですから、「本人ではない親権者は責任を負わないのではないか?」、「未成年者に賠償させればいいのでは?」、と考えられるかもしれません。

しかし、実際上は、未成年者が賠償できるだけの資力を有してないことも多く、未成年者のみが賠償責任を負うというのでは現実的な被害救済にならないことが少なくありません。

こうした事情が背景にあるためか、未成年者が事故を起こした場合、未成年者に責任能力があったとしても、その親権者が責任を問われるケースが多くなっています。

その根拠となるのが上記民法709条で、判例も、子供を監督する義務に親権者が違反したと言える場合、民法709条により、親権者もその義務違反により生じた損害を賠償しなければならない旨、判示しています。

民法709条(再掲)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

自転車事故についてもう少し具体的に敷衍すれば、親権者には、子どもが交通ルールを守って走行するよう未成年者を指導監督する義務があり、個別具体的な事情の下、親権者が自転車事故の防止に向けた通常期待される指導を怠っていた場合には、親権者も民法709条の責任を負いうるということになります。

なお、親権者が監督義務に違反した等の事実の証明は、民法714条1項但書きの場合と異なり、被害者側にあります。

この被害者の証明・立証が成功するか否かは、まさに個別のケースによりさまざまで、裁判所の審理においては、相対立する当事者間で主張や求釈明(相手に説明を要求する)、信用性の弾劾等が激しく繰り広げられます。

未成年者の自転車事故における本人と親の責任のまとめ

以上、未成年者の交通事故とその責任について説明してきました。少し長くなりましたし、親の責任追及の根拠などが未成年者の責任能力の有無によって場合分けされる部分がありましたので、最後に簡単に表にしておきます。

場合分け 未成年者の責任 親権者の責任
未成年者に責任能力が無い 否定(民法712条) 殆ど全てのケースで親は責任ありとされる(民法714条)
未成年者に責任能力がある 肯定(民法709条) 個別事案ごとに判断が分かれる(民法709条)

子どもの自転車事故等のトラブルでご不安がある場合には、一度、弁護士(法律事務所)にご相談ください。