交通事故トラブルにおいては、一方当事者が100%悪い、すべての責任を負うべきというケースもありますが、その一方で、双方いずれにも責任がある、というケースもあります。

たとえば、交差点内で直進車と対抗右左折車が接触した事案や、直進車と進路変更車(車線変更車)などが接触した事案においては、絶対ではないものの、往々にして、双方に過失、責任有りと判断されます。

このように双方に過失・責任ありと判断される場合、その過失・責任の割合(以下、「過失割合」といいます。)は、損害賠償の額に影響を及ぼします(民法722条第2項参照)。

第722条第2項
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

以下、A車を運転していた車両の運転手をA氏、B車を運転していた車両の運転手をB氏とした上で、損害賠償の金額の計算例をみていきます。

なお、過失割合の考え方の説明をシンプルにするため、遅延損害金等は捨象します。

物的損害と過失相殺

たとえば、A車とB車の交通事故に関し、A車の修理費用等が50万円かかり、Aに生じた損害が50万円であった、他方、B氏に生じた修理費用等の損害は30万円だったとします。

A氏、B氏いずれの過失割合も50%の場合

上記事故の例で、A氏及びB氏の過失割合がいずれも50%だった場合、A氏のB氏に対する賠償額及びB氏のA氏に対する賠償額はそれぞれ次のとおりとなります。

<A氏のB氏に対する賠償額>
15万円(B氏に生じた損害30万円×A氏の過失割合50%)

<B氏のA氏に対する賠償額>
25万円(A氏に生じた損害50万円×B氏の過失割合50%)

A氏の過失が80%、B氏の過失が20%だった場合

計算に慣れるため、もう一つ例を挙げておきます。A氏の過失が80%、B氏の過失が20%だった場合は、次の通りとなります。
<A氏のB氏に対する賠償額>
24万円(B氏に生じた損害30万円×A氏の過失割合80%)

<B氏のA氏に対する賠償額>
10万円(A氏に生じた損害50万円×B氏の過失割合20%)

上記のとおり、賠償額の計算はそれぞれの損害額に相手の過失割合を乗じて算定します。

極端な例では

ここで、極端な例ですが、A氏に生じた損害額が100万円でB氏に生じた損害額が10万円とした上で、A氏の過失を90%、B氏の過失を10%とする事故を想定してみます。この場合も計算方法は同じです。

<A氏のB氏に対する賠償額>
9万円(B氏に生じた損害10万円×A氏の過失割合90%)

<B氏のA氏に対する賠償額>
10万円(A氏に生じた損害100万円×B氏の過失割合10%)

この事故のケースは、A氏の過失が90%であり、ほとんどA氏に責任がある、というケースです。

ただ、上記損害を前提に計算すると、B氏のほうがA氏に支払う金額は1万円分大きくなります。。

交通事故事案では、互いの賠償金の内、対当額は相殺することが多いのですが、この事案で、相殺処理をすると、BがAに1万円を払うということになります。

この種の事案では、事故態様に照らして被害者たる地位に立つ、B氏側において、自分のほうが多く払うことになるのか、と気持ちの上で整理がつかないということが少なくありません。

過失割合及び損害が上記のように定まった場合、計算上、この数字での解決はやむをえないところなのですが、被害者側たるB氏にとって納得感が得られにくい類型の一つとなっています。

人的損害と過失割合

過失割合の考え方は、治療費や慰謝料などの人的損害についても妥当します(自賠を除く)。

想定ケース

説明の為、次のケースを想定します。

A氏とB氏の間で事故があった、A氏の過失割合を70%、B氏の過失を30%とし、A氏には怪我はないが(人損がないが)、B氏には怪我が生じている。

そして、B氏には、治療費として50万円、交通費として10万円、休業損害として20万円、慰謝料として70万円の損害(総額150万円)が生じている。

他方、A氏は、B氏の治療費につき、Aが通院した病院に支払いを行ってきており、既に50万円を支払っていた。

過失割合に応じた賠償

<計算方法>
上記ケースの場合、A氏が支払うべき残賠償額は次のように計算します。

①B氏に生じた人的損害の総額×②A氏の過失割合-③すでに支払われた既払金

①の算定に際して先行払いされた50万円は控除せず、損害総額に過失割合を乗じたに先行払い分を控除します。

<計算結果>
上記ケースの例で、それぞれの金額、数値を拾い出すと以下の通りとなり、最終的な残賠償額は55万円となります
55万円=①150万円×②70%-③50万円。
・①B氏に生じた人的損害の総額=150万円
・②A氏の過失割合=70%
・③すでに支払われた既払金=50万円