中小企業の中には、経営・会社財産の管理等に関し、代表者代表取締役・社長が事実上の絶対的権限を有していることが少なくありません。
いわゆるワンマン経営の会社もその一つです。
もちろん、ワンマン経営には、経営判断が早い、思い切りの良い判断を行いうる、というメリットもあります。
上場している企業においても、程度の差こそあれ、代表者の手腕に依存し、ワンマン的な経営がなされている会社が少なくありません
しかし、その一方で、ワンマン的経営には慎重な判断に欠ける、リスクに対してブレーキが掛けにくい、というデメリットも指摘されます。
ある程度規模・組織が大きな会社においても、同様です。
取締役・取締役会の監視・監督義務
営利企業たる株式会社の代表取締役が業務の執行を行い、会社経営にアクセルを欠ける役割を担うとすれば、代表取締役による経営判断のミス等は不可避的に生じます。
それはリスクをとってリターンを求める企業にとっては、やむを得ないことです。
しかし、そうだとしても、致命的なミスの顕在化や、代表取締役による違法行為は会社として避けなければなりません。
そこで、会社法は、取締役ないし取締役会が、代表取締役の業務の執行を監視・監督し、必要に応じてブレーキをかける役目を担うことを求めています。
平取締役であっても、代表取締役の業務執行を監視・監督することが、その任務として求められるのです。
取締役会は、次に掲げる職務を行う。
①取締役会設置会社の業務執行の決定
②取締役の職務の執行の監督
③代表取締役の選定及び解職
取締役の任務懈怠による責任
会社法は、取締役が任務懈怠により会社や第三者に損害を与えた場合の責任についても規定しています。
この取締役の責任は、会社が被った損害、第三者が被った損害の賠償を対象とするものです。
会社法が定めるこの取締役の責任により、ケースによって、取締役が多大な損害賠償義務を負うこともあります。
会社に損害を与えた場合
会社法の定める取締役の責任の一つが、取締役が任務懈怠により会社に損害を与えた場合の責任です。
会社法423条第1項は、取締役等の役員に関し、次のように規定し、取締役の任務懈怠により、会社に損害を与えた場合における取締役の責任について定めています。
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
ここにいう株式会社とは、自社を指します。取締役の任務懈怠が自社に損害を与えた場合に、自社が、取締役の責任を追及することを想定しています。
上記のとおり、取締役には、代表取締役の業務執行を監視・監督することが、その任務として求められます。
そのため、代表者代表取締役の不正行為等を認識し得ながら、平取締役がこれを放置していたような場合には、代表取締役のみならず、平取締役の責任も問われうるということになります。
第三者に損害と与えた場合
次に、第三者に損害を与えた場合です。会社法第429条は、取締役の第三者に対する責任に関して次のように規定してます。
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う
一般的な見解に従えば、ここにいう「第三者」には、会社の債権者の他、「株主」も含まれます。
悪意又は重大な過失により、代表取締役の業務執行の監視・監督という任務に違反した場合には、平取締役であっても、会社債権者や株主に対する責任を問われうるということになります。
この点に関し、第三者から責任を問われた平取締役から、「私は確かに取締役だけど、名目だけという話だった」という主張がなされることもあります。
しかし、名目的取締役であっても、一定の条件の下、責任ありと判断されるのが現状です。
名目的取締役の責任の有無が争点となった事案において、最高裁判所が次のように判示している点が参考になります。
株式会社の取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事項についてのみならず、代表取締役の業務執行の全般についてこれを監視し、必要があれば代表取締役に対し取締役会を招集することを求め、又は自らそれを招集し、取締役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにするべき職責を有するものである・・・
このことは、・・・会社の内部的事情ないし経緯によつていわゆる社外重役として名目的に就任した取締役についても同様であると解するのが相当である
平取締役として行うべきこと
上記のとおり、会社法上、取締役は、代表取締役の業務の監督等、重要な任務を担い、また、会社や第三者に対して重大な責任を負っています。
会社がワンマン経営であったとしても、不正・違法行為については、平時より厳しい目でこれを監視・監督することが求められます。
不正・違法行為と疑われる行為が有った場合に、これを放置すれば、会社や第三者に生じた損害につき責任を問われるリスクがあることに留意しておかなければなりません。