今回は、相続廃除についてです。
これと似て非なる制度に相続欠格があります。相続欠格については、別の機会に解説します。
参照:相続欠格とは
相続排除とは
相続廃除とは、一定の条件の下で、ある相続人から相続権を剥奪する制度のことをいいます。
たとえば、Aさんの法定相続人にBさん、Cさんがいた場合に、BさんをAさんの相続から廃除すると、Bさんは、Aさんが他界したときに、Bさんを相続できません。
通常、相続人は、被相続人の財産を承継する相続権を有しますが、相続廃除が認められた場合、その相続権を失うことになるわけです。
この制度は、相続人が被相続人に対して重大な悪行を行った場合などに適用され、被相続人の意向に沿って、相続人を相続から除外・排除するための手段として利用されます。
相続廃除が確定すると、廃除された相続人の戸籍にその旨が記載されます。 |
相続廃除できるのは被相続人のみ
相続廃除をするためには、被相続人の意思決定が必要です。他の第三者は廃除をすることはできません。
たとえば、上記の例で、Aさんの法定相続人にBさん、Cさんがいた場合に、Bさんは、CさんがAさんを虐待しているのであるから、Aさんの相続から排除すべきである、と考えたとしても、Bさんの一存で相続廃除をすることはできないのです。
相続排除の対象となる者
民法では、法定相続人は、配偶者・子(あるいは孫)などの直系卑属、親(あるいは祖母など)の直系尊属及び兄弟姉妹とされています。
このうち、廃除の対象となるのは、配偶者・子(あるいは孫)などの直系卑属、親(あるいは祖母など)であり、兄弟姉妹を廃除することはできません。
被相続人の兄弟姉妹に相続させたくない、と言う場合には、遺言で、その旨を記載すれば足りるので、相続廃除の対象とはなっていないのです。
配偶者・子(あるいは孫)などの直系卑属、親(あるいは祖母など)の法定相続人は、遺言で一切の財産を渡さないように手当したとしても、遺留分という権利により、一定の財産を取得し得ます。この遺留分すらも渡したくないという場合に、相続廃除の手続は活用されます。
他方で、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は無いので、遺言で、遺産を渡さないように手当すれば、兄弟姉妹には何らの財産も承継させないようにすることが可能です。そのため、兄弟姉妹については、相続廃除の対象となっていません。 |
相続排除が認められるために必要な条件
相続廃除は家庭裁判所の手続を介して行うことになりますが、軽々には認められません。次のような条件のいずれか満たされていることが必要です。
- ➀被相続人に対する虐待
殴る、蹴るなどの身体的虐待のほか、耐えがたい精神的苦痛を与える虐待などを指します。
参照:相続廃除事由としての虐待とは~裁判例を参考に~ - ➁被相続人に対する重大な侮辱
極めて侮辱的な言動や行動を行い、名誉を著しく傷つけた場合を指します。
参照:相続廃除事由としての侮辱とは~2つの裁判例を参考に~ - ③推定相続人の著しい非行
重大犯罪や悪意の遺棄、被相続人の財産の浪費や、度重なる不貞行為、素行不良などを指します。相続排除のためには、比較的重たい要件が課せられており、廃除が軽々には認められない仕組みとなっています。また、家庭裁判所において認定を得るためには、上記の事情を裏付ける証拠が必要です。
参照:相続廃除事由としての「著しい非行」とは~裁判例を参考に~
【注意】
上記の条件を満たし、特定の人物を相続から廃除した場合でも、その相続人に子どもがいれば、その子どもが代襲相続します。 たとえば、虐待を理由に子を廃除したとしても、その孫は当然には相続手続から廃除されません。 孫を相続から廃除したければ、孫に対しても相続廃除の手続を採る必要があり、孫についても被相続人を虐待していたなどの事情が必要となります。 |
生前廃除と遺言廃除
相続廃除するための手続きには、「生前廃除」と「遺言廃除」の2種類があります。
生前排除とは
生前廃除は、被相続人が生前に、家庭裁判所に対して相続の廃除を求める手続を指します。家庭裁判所において、廃除の可否を判断する審判がなされます。申立てができるのは、被相続人に限られます。
遺言排除とは
遺言排除は、被相続人が相続人を排除する旨の遺言を残している場合に、遺言執行者が、家庭裁判所に対して相続の廃除を求める手続を指します。やはり、家庭裁判所が廃除の可否を判断します。
申立てができるのは、廃除の意思が示されている場合に限られます。また、申立を実際に行うのは遺言執行者と呼ばれる者になります。
相続排除の取消・遺贈
最後に、相続廃除の取消と遺贈について補足します。
相続排除の取消
上記手続を経て、相続廃除が家庭裁判所で認められて確定した場合であっても、被相続人が望めば、相続廃除は取り消すことができます。
相続廃除は、被相続人の意思を条件とするものですから、被相続人の気持ちが変わって、やはり相続をさせたい、相続人手続から完全に排除するのはどうか、と考えが変わった場合にまで相続の道を閉ざすのは、適当でないからです。
相続排除と遺贈
また、相続廃除の取消までは躊躇われるが、廃除された推定相続人につき、一部だけ財産を残したい、と言うケース等においては、被相続人は「遺贈」という手段を取ることも可能です。
相続廃除した場合であっても、遺言で遺贈がなされている場合、当該遺贈は有効なものとして扱われます。